序
「だぁーっ、もう! やっぱりお前と来ると禄な事がねぇ、この疫病神!!」
そう言って車のダッシュボードを叩くのは、僕の会社の先輩鮎川幸太郎。
「そんなぁ、道に迷ったのは僕のせいじゃないですよ」
遠慮がちにそういう僕を先輩はぐっと睨んだ。
「宮本、お前のせいじゃないって!? この状態のどこが都内で頻繁に迷子になる地図の読めないお前のせいじゃないって言うんだ。だから、ナビ付きの俺の車で行くって言ったんだ」
「でも、こんな山道で先輩の真っ赤なセリカちゃんなんて走らせたら、それはそれで何と言われるか……」
それで遠慮がちにそう言った僕に先輩は間髪入れずに、
「黙れ、ヘタレ宮本のくせに。確かにこんな道で俺のかわいいセリカWXに傷でもついた日にゃ、泣くにも泣けない。でも、こんな訳の解らないところで迷うよりは何ぼかましだろ」
と、返した。
「けど、今回は地図見てないし、僕のせいじゃないですって!」
「うるさいっ! 自分が地図見れないのを自慢するな!!」
そう言いながら不毛な言い合いをしているそのとき、ものすごい光に包まれたかと思うと、僕たち(正確に言えば僕たちの乗った車)はいきなり落ちたのだった。
何でだろ、たしかに前に道はあったはずなのに……