第五話 超常的な出来事
「時折、左手が自分の意志に従わずに震えるんです。何の病気ですか。あと、自分の撮影した写真がある例外を除いてピンボケになってしまうんです」理は病院の診察室で医師に自分のことをすべて丁寧に説明した。
「・・・まあ、てんかんの一種の可能性が高いですね。頻度は低いですが、手が震えるのには腫瘍が原因の場合もあります。まずはMRIと脳波をとりましょう」評判の良い、中国人で東大出の医師が、優しく理にそう告げると、初回の診察は終わった。理は医師の言葉にかなりの震えを感じた。そして、何故か自分が世界の主人公になった様に感じた。最悪の場合は脳に腫瘍が出来ている。医師がさらっと述べたその言葉が心に突き刺さった。
まずは初回の診察後一週間後に、MRIをとることになった。
病院のMRI検査を待つ場所で、理はペラペラの病衣に着替え、検査を待った。そして自分の名を呼ばれてMRIのある部屋へと入り、円筒状のトンネルのような構造に頭を入れられた。理はMRIの円筒の中で何度も移動した。その検査はMRIの出す大きな音のもとで行なわれた。
ズンズン、ズンズン。何とも気が滅入る大きな音だ、理はそう思った。
そして、MRI検査から丁度十日後に脳波検査の予約が取れた。
予約日、病院へ行くと、脳波を取るための小部屋の前の廊下に置かれた長椅子の所に案内された。程なくして理は自分の名を呼ばれた。そして細長いベッドに横たわり、沢山のワックスを付けた電極を多数頭につなぎ、それらを脳波計につないで脳波を計った。その際、部屋を暗くする。暫くすると光の明滅を瞑った瞼の上に持ってきたストロボで行ない、検査が進んでいく。光の明滅は、瞼の裏に色々なパターンの像を見せてくれる。
二回目の診察日。例の医者が開口一番こう言った。
「くまなく調べたけれど、てんかん以外は異常なしだね。超常的なことは今も変わらずに起きているのかい?ええっと、写真がピンボケになるって話のことさ」
医師の言葉に安堵した理はこう言った。
「ピンボケ写真は治りません。先生でもこれは治せないんですね?」
「症状からすると、僕にも治せないな。あ、てんかんの薬は出しておくよ。今は色々とよく効くてんかんの薬が発売されているんだ。そんな現代に生まれて君は幸せ者だよ」
「そうですか、ありがとうございます。」
理は病院を出ると自宅へと自転車を走らせた。それは、暗い雲が垂れこめていた日の午後のことだった。




