第二話 写真部入部と二人の交際
理の家には、写真のフィルムを現像し、印画紙に焼き付けるための部屋、いわゆる暗室があった。それは、アマチュアカメラマンの父と母が使うためのものだった。もちろん理が暗室を使わせてもらう事も結構な頻度であった。
写真部に入部したのは、理とサツキの二名だけだった。写真部は今年度から始まったばかりで、先輩は居なかった。顧問の東雲楓先生は美術教師だった。学生時代に写真に興味を抱き、主に女性のポートレート写真が得意分野だった。
初めての部会で、写真部部長は理に、写真部副部長はサツキに決まった。そして写真について詳しい理がサツキに写真のイロハについて教えることになった。まずは練習として互いに白黒写真を撮影した。
撮影会が終わると、理とサツキは暗室に入った。ほのかに暗い赤いランプが暗室内を照らしていた。何故だか理の心臓の鼓動が高まった。赤いランプの下で、サツキの輪郭だけが静かに浮かび上がっていた。
その柔らかな線が、言葉にならない何かを理にそっと伝えてくるようだった。そして、写真現像のための器具や薬品の匂いが、二人を包んでいた。
先にサツキが撮影した理の写真を現像した。その写真は、とても綺麗に撮れていた。次に理の撮影したサツキの写真を現像した。何故か分からないが、サツキがくっきりと写っていた。しかし、奇妙なことに、その彼女の輪郭の外側は35㎜の広角レンズを使ったのにぼやけて写っていた。理は、いつも使う50㎜のレンズではなく、あえて広角を選んだはずだった。その写真を見つめながら、理は独り言のようにこう言った。
「いつもピンボケの写真しか撮れないのに、今回はサツキの写っている部分だけ鮮明だ。何故?」
「え、なに?今なにか言った?」サツキは訝し気に、そう理に訊いた。
「完全にはピンボケじゃないんだ」
「どういうこと?」
「そんなことよりサツキ、彼氏はいるの?」いきなりこんなことを訊くなんてどうかしていると思ったが、理は自分を止めることが出来なかった。
「まだ早いわよ」
「今どきは小学生だろうが中学生だろうが、彼氏彼女がいると思ってさ」
「部長は彼女居るの?」
「いない」理は少し寂し気に言った。
「じゃぁ私が部長の彼女になってあげる」
「冗談はやめてくれないか」
「本気よ、私。でも付き合うとは言っても子作りの練習なんて絶対ダメだからね。親に怒られちゃう」サツキは笑いながらそう言った。
『子作りの練習』という言葉が耳に入った瞬間、理の頭の中は一瞬真っ白になった。そんなこと、一度も考えたこともない。いや、本当は考えたことはあるけれど、まさかサツキの口からそんな言葉が出るなんて思ってもみなかった。胸がドクンと跳ねて、変な汗がにじむ。どう返事をすればいいのか分からず、ただ視線を泳がせるしかなかった。
サツキは翌日、話の流れで、理に「昨日の話、本気だから」と言った。
「そうか。じゃあ付き合おう」理は言った。理は内心、喜んだ。
・・・そんな感じで二人の交際が始まった。




