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第十話 サツキの最後


 「もしもし、後藤さんのおうちですか?わたくし斎藤 理と申します。日ごろからサツキさんとは仲良くさせていただいております。」

 「はい。後藤です。ご用件は?サツキの件ですか?」

 「・・・サツキさんは今どんな状況なのですか?」サツキの母親に理は思い切って訊ねた。

 受話器の向こうで、母親が小さく息を吸う気配がした。

 「もうね、立てなくて・・・昨日なんて、気づいたら布団が濡れてて・・・私、どうしたらいいのか分からないの」

 「・・・病院には連れていかれましたか?」

 「・・・それが、まだなのよ。生前旦那が病院なんて行くなって言ってたんだけど、それもあって家族・・・まぁサツキと私だけだけど、病院には子供を生むとき以外は行かないことにしているの」

 理は息を飲む。

 「これから、そちらにお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 「こちらからもお願いしたいところだわ」

 理がサツキの家に着くと、インターホンのチャイムのボタンを押した。

 ・・・そしてベッドにいたサツキを見て、理は言った。

 「すぐに救急車を呼びましょう、僕の父は頭を強く打って慢性硬膜下血腫という病気になり、手術したら直ぐ治ったってことがあるんです。サツキさんを見ているとその頃の父と病状がよみがえってきます」その声は震えていた。サツキの顔が父親の手術前の姿と重なる。 『僕が助けなきゃ』という誤った確信と、焦りとも、恐怖ともつかない何かが、理の中で静かに膨らみ始めていた。そして、意識が飛ぶような感覚を理は覚えた。

 そしてお見舞いの果物を切るために持参した果物ナイフが何故か“医療器具”に見え、サツキの腹部が“腫瘍そのもの”に見える。理の視界がぼやけ、音が遠のく。世界が一度だけ、白く弾けた。次の瞬間、母親の悲鳴が部屋に響いた。理の意識はまだ遠く、何が起きたのかほとんど理解できないまま、母親が震える手で119と110に電話する声だけが耳に届いていた。

 サツキは救急車で学校近くの病院に担ぎ込まれた。救急車にはサツキの母も乗り込んでいた。理は覆面パトカーに乗せられた。 警察官が無線で何かを報告していた。しかし理はその意味を全く理解できなかった。

 しかし、てんかんの発作を起こしたと思われる理もサツキ同様病院へ連れていかれた。

 そして、サツキは、もうこの世には戻らぬ人となった。


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