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神の遣い  作者: izanaMoa
30/31

29話


ーー右平次ーー


 「あの子はいつの日にか、神の遠き所へ、(いざな)い去られる気がするのです」

胸元で清が呟く。

「生きておはさば、別れは(まぬが)れぬことにござる」

(父上も母上も、達者であろうか)

「あの子は世に(まれ)なる子です。産声の後はついぞ泣かず、苦しき折には母のごとく抱いてくれた。いつも守られてばかりで、、」

「あの日の仕儀(しぎ)は、ひとえに我ら奉行の不調法(ぶちょうほう)にござる。年貢を取り立てらるるばかりにては、刀の扱いはおろか数を揃える事も叶わぬと、田助に言い含められてござる」

「主人も刀を帯び得たのです。あたしが山へ入らせまいとしたせいで、あの子のために小刀を(あがな)い来てしもうた」

鼻をすすり、額を押し付ける。

「皆のため、山の幸を、集めたるを、知りながらに」

(小刀か。賊の中にも、村の家々の中にも見えなんだ)

「小刀は何処に?」

「あの子が、賊を追い払いたる最中に、失くしたと」

(賊の一人が足に深手を負うておったは、それゆえか)

「御亭主は、三人を守り()げられたのでござるな」

背にまわした腕に力が()もり、声を漏らして泣く。そっと頭を抱いた。



ーー弥太郎ーー


 三つに分かれる天の中川の、絡み合う二つの川を眺める。

「大きいな」

「大雨が降れば、さらに向こうの川とも合わさり、一つになりて暴れるのだ」

「蛇などおらぬ」

「海へか、山へか、いずれの方へと向かおうか?」

「山じゃ」

和尚と共に、川に沿って歩み続ける。田に比して、家の数が少ない。遠くに立ち並ぶ家々が、川の暴れた跡を浮かび上がらせる。

(琳海の家も流されたのだな)


 山の際まで行けども見つからず、引き返す。日の高きうちに、宿る寺へ着く。

「弥太郎は、また外を見て回るや?」

「夕餉までには帰る」

和尚に荷を渡し、山に沿って歩く。

(山奥の爺しかおらぬな。独りならば、家より一日のうちに行き帰りも(かた)くない)

日の傾く空を眺めつつ、来た道を戻る。山の影より、大きな鳥が飛び出した。

(おった!)

「おーい!」

大きく手を振るが、飛び去る。

(遠きか。ねぐらを見付けねば、、)

大きな鳥が向きを変え、此方に飛んでくる。もう一度大きく手を振った。真上を優雅に回る鳥を見上げる。

「爺、物申させよ」

声を掛けると、ゆるりと近くに降り立った。人の背丈と変わらぬほど大きな鷲と静かに向き合う。

「そなたが雨を知らせる神様か?」

「ふむ、北の迷い子か。また襲われたのか?」

「そなたが雨を知らせた坊さんを連れて来た。いささか、物を申してやってはくれぬか?」

片羽を開いて首を曲げ、嘴でつつく。

「迷い子よ、我らは人と語らうたりせぬ」

()らば、なにゆえ雨を知らせたのじゃ? 他の爺らは我を助けてくれたぞ」

「イザナの頼みよ。そなたは人に(あら)ず」

「イザナ? 人に非ざるならば、神か」

「人の器を好む変わり者よ。そなたと我らは器の中身と思うがよい」

「器? 食い物か?」

「我らは割れたりせぬ。次の器に移りゆくばかりよ」

(椀の粥をもう一つの椀に入れるのか?)

「粥は粥であろう?」

「はぁ、、、イザナに伝えよう。今宵(こよい)、人の寝静まる時を待て」

力強く飛び立ち、山の陰に消えた。


 夕餉を終え、座敷に横たわる。和尚が目を瞑り、経を呟く。

「ちと静かにしてくれぬか?」

和尚が息をつく。

「神様と語らうは、恐ろしゅうは思わぬや?」

「食らわれたりなどせぬ」

「そなたは粥であるからな」

(かた)き話は好まぬ」

腹が満たされ、目を瞑る。


 肩を揺すられる。

「弥太郎、起きよ」

目を擦れば、灯油(ともしあぶら)に照らされた和尚が伏していた。

(弥太郎か、見てくれは悪うない)

何処かより、声のみ聞こえる。

「イザナか?」

(未だ(いと)けなきよのぅ。三、四年待つか)

「和尚に物を申させてはくれぬか?」

(よいぞ、申してみよ)

「弘法院の住持を務める掛海と申しまする。弥太郎殿をお預かり致、、」

(聞きたき事のみを申せ)

「失礼を致し候。、、弥太郎殿をいかように導き申そうずるや?」

(人の身にて生かしおけ)

「それのみにて、事足り申そうずるや?」

(他に何ができるのじゃ?)

「き、経を授け、真言密教を、、」

(はっはっは、これを坊主にするか。 つまらぬ事を説くのか?)

「や、やはり、仏法は偽りにておわしますや?」

(そなたらが申す輪廻はな、我らのみが持てる力よ)

()らば、人の()つる時には、いかように相成るものに御座るや?」

(土に(かえ)るのみよ)

「釈迦如来は、、、」

(わらわ)にも分からぬことが存ずるのじゃ。海の向こうの声が聞こえなくなってしもうたからの。四百年前に坊主を(つか)わしてみたが、早々に帰りおったわ)

「く、空海様の、ことでしょうか?」

(愉快な奴よ。所詮、人に過ぎぬがな)

「釈迦如来は、解脱し給うや?」

(輪廻は終わらぬ。弥太郎と共に、泣き言ばかりなる変わり者が不意に現れおったわ)

「、、、」

和尚が黙る。

(じき)にまみえようぞ、弥太郎よ)

声が止んでも、和尚はしばらく伏し続けた。

お読みいただきありがとうございました。

口調、ルビの統一や、諸々の修正のため、更新を中断します。

ストーリーに変更は御座いません

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