表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神の遣い  作者: izanaMoa
29/31

28話


ーー弥太郎ーー


 「もしもおはせば、少しなりとも、和尚に物を申させてくれ」

「言うてはみるがな」

母が厠に立った折に、右平次が草履を履いて立ち上がる。

「右平次、逃げ()するなよ」

妙な返事をして家を出た。

「右平次様はもう()でられたのかい?」

「うん、我も常より早う行かねば」

「和尚の申さるることをよう聞くんだよ」

「分かっておる」

替えの衣を詰めた包を肩に掛け、家を出る。寺に行く前に、見世のある方へ向かう。寒さも和らぎ、朝の日のさしが暖かい。道のほとりには、草が芽吹く。

「おばちゃん」

「おや、弥太郎じゃないか。どうしたんだい、こんな早うに」

「幾日か寺に宿ることになった。おっかぁと右平次を頼めるか?」

節が目を見開き、口を大きく開けて笑う。

「あっはっは、分かったよ。あたしに任せとき」

「ではまたな」

米屋に背を向け、来た道を戻る。

(せん)なき男よ、まったく」


 「これより参らん。雨降れば一日延びるやもしれぬが、案ずるな」

「弥太郎、掛海様の言いつけを守るのだぞ」

「分かっておる」

琳海が不満げな顔をする。掛海と共に歩み出す。

「たかだか三日四日のことよ」

後より、永海の励ます声が聞こえた。


 雨笠を被り、増えた荷を減らす。

「何処まで参ろうか。そなたは海をば見及ぶや?」

「ずっと昔にな。あの水は飲めぬ」

「塩が混じりておる」

「漬物の味は海の味であったか」

「海にも神様はおはすや?」

「見及ばぬ」

「天の中川には、おはすと思うや?」

「行けば分かる」


 見渡す限りの枯田(かれだ)と、人の多き町を()わる()わるに過ぎて行く。

「人は多いな」

「人多ければ、苦しみも多し」

「食い物が足らぬわ」

「神様は日も雨も自由になし、人をば苦しめ給うや?」

「さぁな、爺らは、ただそこにおるとばかりに見ゆるわ」

「人には、御心(おんこころ)()けられぬか」

「人の身の爺には会うてないな。山奥に人は住めぬゆえか」

「その身をば神なりとは、思わぬや?」

「神にてあらば、ちと楽に生きたいわ」

「左様だな」

掛海が笑う。



ーー右平次ーー


 「右平次、風呂にお入り」

屋敷の女房より声を掛けられる。

「風呂? 未だ正午にござろう」

「節が’身を清うしとき’とさ」

(はぁ、、清が頼み申したことか? 今朝の弥太郎の物言いはこのことか)

「お前さんには呆れるよ。半年も一つ屋に居ながら何してたんだい?」

「亭主を亡くされたばかりにござる」

「なればこそよ。()づるとても、火は消すんじゃないよ。後も用ずるからね」

薪と火種を運び、水を汲む。燃える薪を眺める。

(もう四年も経つか。菊にも子がおるであろうな)

弥子を思い出す。

(清とは異なり、死に別れをせぬだけこそ幸いか)

気付けば、風呂より湯気が上がっていた。


 弥太郎の居ない夕餉。

「少し(こしら)え過ぎてしまいました」

恥ずかしげな清と見合う。

「弥太郎はよう食らうゆえ、大きに育ちましょう」

「右平次様のおかげにございます」

静かな夕餉は、たちまちに終わる。這いよる弥子を抱き上げ、相手を致せば、目を擦り始めた。

「はや、(ねむ)たげにござる」

草履を履いて立ち上がり、清に渡す。弥子を抱く手に、清の手が重なる。


 囲炉裏に背を向け横たわる。弥子をあやす声が止む。身を起こす音、草履を履いた。その場で足踏みし、衣を静かに置く音。足音が近づく。囲炉裏との間に割り入って横たわり、腕をまわしつつ背に抱きつく。

「御亭主の事は、苦しうござらぬか?」

「右平次様ならば、許してくれましょう」

清の手が衣の紐を(ほど)く。指が腹をなぞり衣を開くと、肩を引かれて仰向けにされた。上に跨る清が(ほの)かに照らされる。身を倒し、柔らかな胸を押し付ける。

「少しばらく、共に()りて(たも)う」

鼻に触れる髪と汗の匂い。顔を上げ、見合う。

「清殿」

唇を重ね、指が絡む。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ