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神の遣い  作者: Moa
24/26

23話


ーー九条経教(つねのり)ーー


 風もなく、日のさしあたたかなり。乾ける庭にて、護衛ども汗を流したり。

「次!」

左馬之助、また一人を地に転がしぬ。

「パンッ、カッ、ドッ」

「ぐうぅ、、」

「同じ手ばかり食らいおる、次!」

(来たり来たり)

木刀の先、触れざる間合いにて、睨み合う。皆、九兵衛の息遣いに心寄せたり。息を吐く途次に、九兵衛仕掛くる。

「カッカッパンッカッ、パンッ」

(ほぉ、ついに振り向きざまの斬りに(こた)えしや)

再び向き合いて、息つく間もなく左馬之助、仕掛けたり。

「パンッパンッパンッ、カッ、ドッ」

一方的に攻められ、九兵衛蹴り飛ばされぬ。追い打ちをかけんと近づきし左馬之助、たちまち後ろへ跳び去りぬ。伏しつつ木刀をかざし、笑みを浮かべたり。

(あえて蹴られしや。いとをかし)

「これにても勝てぬか」

「その意気や()。相手の刀を制するとは、かくのごとし」

(そのうち一本取りそうじゃな)

「大旦那様、、、」

下女、恐る恐る声を掛けきたり。

(またか。あと少しなれば、待たせてもよかるべし)

「済まぬな、そなたの故にあらず」

神祇(かんづかさ)の吉田様、参り給いぬ」

(おぉ、兼煕や)

「此方に通せ。湯と(ふすま)もな」

()き加減に冷めし湯を呑み、手を温めたり。


 「遅ればせながら、新年の御挨拶、奉り申し上ぐ」

兼煕、伏して申したり。

「そなたの心遣い、嬉しきことよ。今しがた合戦(かっせん)するところじゃ。共に眺めようぞ」

下女の置きたる円座に座し、膝に(ふすま)を掛けたり。

「忝い。二対四にて御座りまするか?」

「二人を相手にし得ば、三人も四人も同じことだそうな」

二つに分かれたる護衛ども、向き合いたり。左手奥に左馬之助、手前に九兵衛、やや間を(へだ)てて立ちたり。四人が仕掛くると見せかけて、二人、先だちて斬りかかりぬ。

「カカッパンッカッ」

残りの二人、突きを差し込まんとすれば、九兵衛、苦し紛れに後ろへ跳び退()きけり。左馬之助、(たく)みに所を入れ替え、奥の二人、刀振るえぬところを叩かれたり。残る二人も背後より叩かれけり。

「また下がりおる」

「此度は突かれざりしぞ」

「また一度!」

九兵衛叩かるる時もありつつ、四人、根を上ぐるまで続きぬ。

「すばらしき稽古にて候。武道を眺むるも、いとおもしろきことなり」

()うじゃろう? 京に興なし。老いたる身、案ずる言を述べども、腹の内透けたる者ばかりなり。武家に関わりて、なお一層酷くなりぬ。良基の如くさらに踏み込みば、皆黙るかのぅ」

「しばし耐え給いたく存じ奉る次第なり。清岡家の桐子殿のため舞台を(こしら)え、家格を半家に昇格せよと、殿より(おお)せ仕り候」

「かっかっか、昇格じゃと? (とど)めよ。公家どもにとやかく言わるるは、この儂ぞ」

「昇官に改め候」

「うむ、桐子殿は京の舞台を引き受けたるや?」

「それが、、、父上を通じても辞され、使者を遣わせども辞され、(それがし)も参りたりけれど、’公家如きに見さす舞など無き’と申したりけり」

(あの者らしき物言いよ)

「儂より頼んでみむ。あれほどの者が民の語り草にて終えるは、惜しきことなり」

「忝う存ず」

(冥土より見よ、良基。観阿弥だの世阿弥(ぜあみ)だの。静御前すら、()の者には敵わぬなり)


 騒がしく人や物の行き交う千本通より東に一本入りぬれば、小さからぬ屋敷ども、立ち並びたり。屋敷の下男下女と時々すれ違いつつ、静かなる道を歩みけり。

(武家、寺社、商人。高き塀にて、外より分からぬようにしておるや)

「此方に候」

「御苦労、事足れり」

兼煕の用意せし道案内、礼して立ち去りぬ。門の前にて塀の続きを眺めれば、他の屋敷に勝りて大きに見ゆ。扉を開け中に入りぬれば、塀との間広がりて、木や石を並べ得べきさまなれど、何も無き。

「誰ぞ、()るか?」

左馬之助、声を()づれば、戸開きて柳見えたり。

「、、御隠居様、よくこそおいでなされました」

うろたえつつ、礼をなしけり。

「桐子殿はおはすや?」

「此方へ、いざおはせ」

「そなたら、此処にて待ちたれ」

左馬之助と九兵衛を待たせ、柳に付き従いて屋敷を回り込みぬれば、さらに広き庭ありけり。

(此の()にも、何も無き)

「姫様、御隠居様参り給いたり」

「開けよ」

くぐもり声に従いて襖開けば、幾重にも重なる衾に埋もれ、顔半ばを出ずる桐子、横たわりぬ。

「ついに此処まで来ぬるか?」

「ほっほっほ、京の舞台を()しておると、聞こえしことなりや?」

「舞う(よし)無し」

「半家への昇格にても足りぬや?」

「よう見てみぃ、足りぬ物など無き」

「そなたの申す通りよ。()れど、公方も執念(しつこ)し」

(あや)しき目にて此方を見据えけり。

折節(おりふし)、身の毛立つ目をしよる)

「はっはっは、よかろう。(わらわ)と勝敗を競いて勝てば、汝等(なむら)が望み、(いづ)れも叶えん」

「何れもや?」

「何れもよ」

妖しく笑いけり。

「ほっほっほ、して、何を競はん?」

「蹴鞠ならば、楽しきや?」

(義満の長ずるところ、知らぬげなり)

「然れども、蹴鞠は勝敗を競うものに(あら)ず。何を(もっ)て、負けと()すや?」

「鞠を渡すに及ばず、地に落とさば負けじゃ」

「いかほどの人にて競うや?」

「妾は独りにて足る。汝等(なむら)は七人して()かれ」

「七対一とな! かっかっか、いとをかし」

(飛鳥井の門弟に敵うまじ)

「時と所は任す、人払いせよ」

「そなたの心変わらぬ間に用意せねば。昼寝を(さわ)りしたり、許されよ」

「重き装束(しょうぞく)は相手にならず。軽やかなる衣を着よ」

(たいそうなる自信かな)

「心待ちにせん。さらば、これにて」

呆れし柳を背に、屋敷の入口へ向かう。

(あと十、(いな)二十、若かりせばな)

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