表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神の遣い  作者: Moa
23/26

22話


ーー足利義満ーー


 「しかして、謁見は急がずともよい。いずれ大覚寺の方より、申し出があろう」

()らば、そのように致しまする」

三ヶ夜(さんがよ)続きし内侍所(ないしどころの)御神楽(みかぐら)を終え、三種の神器、京に戻りたり。

伊勢守(いせのかみ)に御座います」

「入れよ」

兼煕(かねひろ)と語り終えし直後にて貞行、折よく来たり。

「失礼(つかまつ)り候。後ほど参り申す」

「待て貞行。今しがた語り終えしところよ」

入り来たるや、兼煕に向かいて平に伏す。

「此度の大役、誠に見事に御座候」

「いやはや、我は大した事を致しておらぬ。御隠居様が吉野へ参られませぬれば、成し得ざりしと存ず。輿に詰めて連れ来たりし伊勢守こそ、勲功(くんこう)の者なり」

「我が不徳の致すところにて候」

再び頭を垂る貞行を眺めつつ、二人して笑いけり。

「分かりておる。あれは九条の当主の仕業よ。されどな、御隠居もいらぬことを致しおるわ」

「ひと月にて、すべて終わりしものと存じ候」

「楠木と北畠は諦めておらぬ。御隠居が’足利を討つべし’と申したと聞く」

「それは、、、大胆にて候な。吉野方の総大将と伊勢国司(くにのつかさ)の兵力は健在なりと」

「神器さえ戻せばよしと、確かに申したりしがな。大覚寺に手出しも叶わぬ故、人質としては用い得ず」

「火種、未だ消えず候か」

「焚きつけたるが如きものよ」

「持明院様も騒がしきことと聞き及び候」

「御隠居が絡みおること知りたるも、九条と争うわけにはいかぬ。我ばかり責めらるるもまた、公家の(すべ)なるや?」

「御隠居様曰く、’公家には(きょう)、必要なり’と」

「ふふっ、そなたも二条家にて家司(けいし)を仕りしほどのことはあるな。貞行、これぞ公家よ」

「恐ろしゅう御座いまする。興と申せば、白拍子につきて粗方(あらかた)調べつき候」

「聞こう」

「菅原氏高辻庶流の五条庶流、地下家(じげけ)の清岡家に生まれ、兄弟は現当主の兄一人のみ。千本通を北に、船岡山の傍らにて先代である父と住み入り候。三十路近くにて未だ婚姻なく、旅の護衛に雇いし男、出入りする(よし)に候」

「地下家にて、あの辺の屋敷に住み居るや?所領は如何なる?」

「清岡家の所領とは分かれており、舞の手当のみには足らぬものと存じ候」

「どこぞの(めかけ)や?九条は如何なり?」

「御隠居様は、護衛すれども、旅に付き従うのみと申され候」

「ふむ、まぁよい。御隠居の此度の働きに(むく)いんがため、盛大なる舞台を用意せん。清岡の家格も半家に上げ申すべし」

「家格を上げんとするは、前例を見ず。容易(たやす)き事には(そうら)はず」

「半家の一つすら増やせぬや? 高辻も五條も、庶流の身(あが)らば喜ぶべし」

「、、、御意に候」

兼煕、席を立ちし後、貞行と(まつりごと)につきて語り合いけり。



ーー弥太郎ーー


 僧堂にて、皆で机に向かいて写経する。

(弓、尓、太、ろう?)

「’ろう’が書けぬ」

「もう一度見ておれ」

隣に座りし琳海が手本を見せる。

「こうで、こうで、こう。右は(ひぃ)(ふぅ)(みぃ)で書くのだ」

真似て幾度も書いた。

「ちと楽な字にならぬか?」

「はっはっは、慣れればそう難くない。それに、名は願いの込められたるものなり」

掛海のみが笑っている。

「拙僧は三郎と申した」

「我も五郎」

「同じく次郎」

「拙僧も太郎と申した。弥太郎のみ一字多く、羨ましき」

永海、山海、照海に続き、琳海が不満げに申す。

「法名があるではないかや。弥の字は、’最も’や’ますます’という、めでたき意を持つなり。そなたの’はんえい’を願い、名付けたのであろう」

「はんえい?」

「家、家族やその周りを大きくするという意なり」

「おっとぉも村も無くなったぞ?」

皆が筆を動かし始めた。

「ま、まぁ、願いは叶わぬことも多きな。されど、思うままにならぬとて、悪行をなしてはならぬ。次の生は畜生道にて苦しむこととなろう」

「獣は嫌いか?」

山海と永海が横目にて此方を見る。

「弱き者は強き者に食われる厳しき世なり」

「獣も人と変わらんじゃろう?」

「いかにして、かく思うや?」

掛海の目が鋭い。

「狐の母は、子が飢えぬよう狩りをする。して、子が飢えぬよう狩りの(すべ)を授けるのじゃ。草が食えぬなら、肉を探すだけじゃろう?」

(うな)りつつ思い入る。琳海が不安げな顔をした。参詣人(さんけいびと)の声聞こえ、掛海が立つ。


 写経を終え、琳海と二人にて僧堂の床を拭く。

「弥太郎の父上は何に生まれ変わりしと思う?」

「さぁ、何でもよかろう」

「生まれ変わりても、すぐに食われてしまうやもしれぬぞ?」

潤んだ目で此方を見る。

「兎も鹿も、母がすぐ気付きて逃げてしまうわ。肉を食らうは楽ではないぞ」

「かぁも、とぉも獣に生まれなばと恐ろしゅうて、、、」

こぼれる涙を拭う。

「皆それぞれに生きておる。どこか遠くにて、人には食らえぬ草を旨そうに食らうておるじゃろ」

「弥太郎の申す通りだな」

鼻をすすりつつ笑い、また床を拭き始めた。

(人の身はそれほど良きものだろうか)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ