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神の遣い  作者: Moa
21/26

20話


ーーいと/柳ーー


 「ただ今、戻り参りました」

「大事はなかりしか?」

御主人様の座敷にて、旅の(よし)を申し()べる。ふと隅に目をやれば、見慣れぬ焼き物が置かれていた。

「こ、これはな、市にて安く売られておりしゆえな、、、」

(ふところ)より割符(さいふ)を取り出す。

「掛け売りと一月分の(つい)えに御座います」

居ずまいを正して割符(さいふ)を畳の上に置き、押し出した。

「いつも済まぬことよ」

顔をほころばせ、手に取る。

「も、もう少しばかり、何とならぬか?」

「姫様にうかがいてみん」

「いや、桐子にはの、上手く伝えてくれ」

「承知(つかまつ)りたり」

座敷を後にし、土間へと向かう。散らかりし台所を伊助が整えていた。

「下女を雇うべき銭まで使い果たすとは」

「食材もほとんど何もなし」

「はぁ、掛け売りにて飢えをしのぐなど」


 二人にて片付け終えし頃、与吉が輿を担ぎし二人の男と共に来た。手際よく輿より物を出し、台所へ運び入れる与吉らに置く所を指し示す。男らを見送った与吉が(かめ)の蓋を開け、匂いを嗅いでいる。

「たまには夕餉をご馳走くれぬか?」

「早うお行き。おかみさんに叱らるるよ」

「ではでは、また明日な」

不満げに裏口より立ち去った。

「たまには良きではありませぬか?」

「かような良き物ばかり食せば、姫様のごとくなりてしまうわ」

(根のもの、葉物、白き米に(ひしお)、味噌。いずれも日々食せる物にあらぬというのに)

米を炊き、汁は濃い目に仕立てた。


 「お味のほど、如何(いかが)にて御座いましたか?」

「まずまずじゃな」

「別の具材にいたすほうがよろしきや?」

「ふっ、まだ気にしておったか」

歯の隙間に爪を立て、衣で指を拭く。

「採れたての地の物に(まさ)るものなどあるまい。魚を捕りてより京まで、幾日(いくひ)かかると思うておるのじゃ?」

「では、この献立にてよろしゅうござりまするな?」

「今までの下女どもに()すれば、よくこしらえおるな。つつじ屋のたまなどは、’食えればよろし’と言い捨ておったわ」

「かねてより気にかかっておりましたれば、あそこの主人にお会いしたことがござりませぬ」

「与吉は鶴屋におるぞ」

「与吉?割符屋にござりまするや?」

「あの家の男は皆与吉よ。いつも取りに行っておるじゃろう?」

「そういうことでありましたか。先の家では割符に触れることなどなかりしゆえ。そういえば、御主人様のことにて御座いますが、、、」

「割符を出せ」

懐より取り出し、姫様の前に置く。一枚を手に取り、座敷を出て行った。

(ただ渡すことなどあろうか)

「き、桐子、よせ、やめるのじゃ!」

何かが割れる音。何事もなかりしごとく、姫様が戻ってきた。

「よろしきや?安からぬとお見受けしましたが」

「焼き入れが足らぬわ」

(焼き物にまで詳しきとは)

身を横たえんとする姫様のため、膳を片付ける。



ーー永海ーー


 寝支度を整えし後、山海と共に掛海様の居間へ向かう。弥太郎と山へ入り、疲れが身に(こた)え来る。大きめの麻袋一杯に栗を拾い、指が赤く腫れおる。

「答えが出たと思うておるか?」

「ますます険しき様に見ゆる」

夕の勤行(ごんぎょう)も山海に任せ、居間に戻られたり。

「山海と永海に御座います」

「入られよ」

山海と並びて座る。

「あの者は獣の頃の記憶を()つと申すそうなり」

「菩薩なりしか!」

驚く山海を(なだ)めつつ、右平次様との語らいを述ぶ。


(弥勒菩薩までおはすとは)

夢幻(むげん)のごとき話にて、山海が黙りぬ。

「永海、高野山にて修行して参れ」

「お大師様も下生なされしとぞ?」

「何事か起こりつつあるやも知れぬ」

時宗聖(じしゅうのひじり)のごとく、銭に目くらみておるからなり。かくのごとき所へ、永海を遣わされるや?」

「そなたよりも、つつがなくこなすであろう」

「乱闘の騒ぎを起こすようなことはあるまじ」

山海が此方(こなた)を睨む。

学侶(がくりょ)として十分に成し得るよう教え来たつもりなれど、明日よりいささか厳しう教えよう」

「年明け頃になり申すか?」

(いな)、春に神様に御逢いし、事の次第を問うてからなり。何を(おお)せられようとも、準備だけはしておかねばならぬ」

(かしこ)まり申した」

山海と居間を後にす。

聖方(ひじりがた)が教えに(そむ)くゆえ、かくなるのなり」

「まだ()ると決まりしわけにはあらぬ」

「あやつらのごとく、安易なる信仰に染まるるべからず」

(うるさ)き山海を無視し、僧堂に入ればすぐに筵に横たわりたり。

「明日はまた栗を食うべしや」

琳海が嬉しげに何やら(つぶや)きておる。

()うだなぁ」

「くふふふふ」

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