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神の遣い  作者: Moa
11/26

11話


ーー節ーー


 日も傾き、通りを行く人も(まば)らになる。見世を仕舞い始めると小さき(かめ)を持った右平次が来た。

「漬物屋の主人が’節殿が呼びおるぞ’と申しておりましたが、いかにせしや?」

「いかにせしや?じゃないよあんた。薄き粥を漬物で誤魔化そうってかい?」

「、、、銭はしかと渡したでござる」

(ちご)二つ抱えて使い尽くすわけないじゃないか。お前さんがために上質の筵を(もう)けて、みすぼらしき姿で(あわ)(ひえ)を買ったんだよ」

右平次は目を伏せ、深く息を吸った。

「、、、上衣(うわぎ)のみなりても(ただ)ちに買いて参ります」

「お待ち、あたしらがことごとく済ましたよ。今日よりおこわだから朝餉も共にしておやり。お前さんがなければあの子が粥を食うことになるからね」

「忝い。後にてお支払い(つかまつ)り候」

深き礼をして足早に去る。

(一度なりとも抱けば、昔の女など忘れるだろうに)

「歯がゆいねぇ」



ーー右平次ーー


 「右平次でござる」

筵戸を捲ると米の匂いがする。竈の前に立つ清は目が合うと慌てて床に伏した。

「面目もございません。何卒お許しくださりませ」

家の内を見回すと新しき草履や衣、麻袋、根のもの、竈の上の(こしき)が湯気を上げている。

(これほどまでに節の手際が良いとは)

「頭を上げてくだされ。もはや銭は心配無用でござる。この家を清殿のものと致すことも叶うのです」

「ま、まことですか?」

顔を上げた清の頬に涙が伝う。遠く(へだ)たりし女を思い出す。

(「右平次」)

「様。右平次様?」

「いや、あ、漬物を買いて参りました。切り分けてくだされ」

清を立ち上がらせて(かめ)を渡し、弥太郎の方を向くと目が合った。心を見透かすがごとき鋭さで身に寒気が走り、目を逸らした。

「程なく出来上がりますゆえ、、、」

弥太郎が赤子に目を向けた隙に近寄り、そっと腰掛ける。

今宵(こよい)よりこの者の(かたわら)にて()ねばならぬのか)


 米を前にした弥太郎は並みの童であった。清はおこわを粥にして赤子に食べさせている。

「よろしければ、朝餉も共に致しませぬか?米はそれがしがしたためる故」

「左様に致してくだされば」

「明日も米が食えるのか?」

「よう食ろうて大きゅうならねばな」

「栗が落ちるのを待たなくてよいのか」

「栗と米を共に食らうと旨いぞ」

「楽しみじゃ」

弥太郎が子供のように悦ぶ。

「読み書きを教えんがために、弘法院に通わせてはいかがでござろう?」

「寺に出すのですか?」

「いえ、昼の間のみて寺で学ぶのでござる」

「坊さんの頭にするのか?」

「したければ、せばよかるべし。読み書きならぬ者は百姓にてしかあらぬ。米が食いたかろう?」

「うむ、米じゃ」

食物(けもの)にて(いざ)()すほかあるまじ)



ーー足利義満ーー


 「伊勢守(いせのかみ)に御座います」

()れよ」

襖が開き、入り来たる貞行が面前にて(ひら)に伏す。

見出(みい)だされしや?」

「御隠居様は小浜からの帰路にてあらせられます」

「かくも大事な時節にいかなる用向きで小浜なんぞに?」

「それが、、、ある白拍子(しらびょうし)を追いかけておはしますようで。座の列に(まぎ)れ、近江、長浜、敦賀と旅を」

(たわむ)れおって!九条家の家長たる者が何を致しおる」

「十一代目に家督を譲りて久しく、実務に差し支えなからんと存じ候」

「そちは公家を心得ておらん。この五年にて鷹司(たかつかさ)近衛(このえ)、二条と順に長老が世を去り、一条は家を立て直す最中。五摂家の内、あの爺より朝廷を知る者はおらぬ。輿(こし)に詰めてにても連れて参れ。兼煕(かねひろ)にてはこの約、(まと)めきれぬぞ」

斯様(かよう)御仁(ごじん)に?」

「表には姿を見せぬが、公家の連中が最後に頼むはあの者よ」

(三種の神器を取り戻さば、両統迭立(りょうとうてつりつ)などいかようにも相成るであろう)

立ち上がり襖を開け、庭に咲く(くず)のしぼみたる花を眺む。

「次の春にはさらに花を咲かせようぞ」

目立たぬ(すすき)の花が風に揺れた。

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