3:初めてのギルド
翌日、蓮は軽くなった足を確かめながら、繁華街の一角にそびえる建物の前に立っていた。
看板には大きく《ダンジョン探索者ギルド》の文字。通称「ギルド」。ダンジョン関連の情報や仕事が集まる、探索者にとっての拠点だ。
「……本当に、来ちまったな」
昨日、篠原と別れる前に「一度ギルドに顔を出せ」と勧められた。
蓮はまだ半信半疑だ。自分が冒険者まがいのことをするなんて、数日前までは想像もしていなかった。
中に入ると、木のカウンターと奥に並ぶ掲示板が目に入る。
カウンターの奥から、茶色の髪をひとつにまとめた女性職員がにこやかに声をかけてきた。
「初めてのご利用ですか?」
「あ、はい……」
「では、探索者登録からですね。身分証と、登録料はこちらになります」
手続きを進めると、金属製のカードが渡された。銀色の表面には「見習い」の文字。
これが探索者カード。依頼を受けたり、中級以上のダンジョンへ入る際の通行証にもなるらしい。
「下位ダンジョンは、登録なしでも入れます。まあ、危険度が低い分、得られる報酬も少ないですが」
――なるほど。昨日、自分が無登録で潜れたのはそういう理由か。
「登録ありがとうございます。そういえば――昨日、スライムにやられたって話、聞きましたよ?」
「……誰からだ、それ」
「ふふ、篠原さんですよ。心配してました。『あいつ油断して怪我してやがった』って」
思わず顔が熱くなる。どうやら昨日の出来事はもう広まっているらしい。
掲示板に目を向けると、「素材回収」「ダンジョン清掃」など初級向けの依頼が並んでいた。
その中で、一枚だけやけに赤い紙が目立っている。
『【緊急】第5ダンジョン下層でモンスター異常発生』
受付の女性に尋ねると、表情が少し曇った。
「最近、一部のダンジョンでモンスターの数が急に増える現象が多発しているんです。
まだ下層だけですが……放っておくと“スタンピード”になる危険があります」
スタンピード――モンスターが溢れ出し、地上を襲う現象。
蓮は一瞬、背筋が冷えるのを感じた。
そのとき、背後から聞き慣れた声がした。
「おう、来てたのか。……ちょうどいい、軽い依頼から一緒に行くか?」
振り返ると、篠原がにやりと笑って立っていた。
蓮は一呼吸置き、探索者カードを握りしめた。
「……ああ。行ってみるか」