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83.人は墓場で何を見る?


「それでは少し、フランクウッド様たちの様子を確認してまいります」

「うん」


 シュバリエはそう言うと、カボチャを被ってリリステナの戸を開く。そして、外へ出る。


 そしてそこで会話を終えた二人へと声をかける。


「お邪魔でしたでしょうか?」

「……いや。それより、君が来たということは、ええ。お嬢様が目を覚まされました」

「分かった、押しつけてしまう形になってすまない。彼女にロベリアの件を聞かないとね」

「……そうですか」


 くぐもった声。

 憂鬱なトーン。


「あまり気が乗らないと言った感じだね」

「まあ……」

「そうか――」



 ◇



 一人残されたシェリーは返事のかえって来ない、暗闇に問いを投げかける。


「ねえ、なんで……貴方が出てきたの。私は何も頼んでない」


 静寂。

 当然だ。


 そこにロベリアなんていないのだから。


 ただ、頭の中で反響するのだ。彼女の声が。

 どんどんと自分が自分で無くなっていくような気がしてならない。

 自身を形作る何かを根本から書き換えられていくかのような、恐ろしい感覚だ。


「……」


 シェリーはベッドの上で蹲る。

 まだ、手のひらに残る温かさを頼りに、暖を取る。


「シュバリエ、ありがとう」


 それは少しだけ、ずるい言葉だっただろうか。

 だけれど、本人がいないからこそ、吐けた言葉の様にも思えた。


 炎が燃える。

 人が死ぬ。

 そんな情景が脳裏に映るのだ。


 誰かが悪いわけじゃなかったのだろうか。

 もしかすると、皆が悪かったのだろうか。


 噛み合わせが悪かったのだろうか。

 歯車を抜き取られたのだろうか。はたまた、追加で組まれていったのだろうか。


 始まりは何だったのだろうか。


 いろんなことを考える。


 それは到底、十四歳の少女が背負っていいようなものではないのだろう。

 でも、シェリーはそれを背負わなければならないでいた。

 何故か、それは分からない。


 それこそ、そんな運命とでもいうのだろうか。


 今何をしているのか、これに意味があるのかも分からない。

 どこに向かっているのかも分からない。


 それこそ、ただただ波に流されているだけなのかもしれない。

 人に言われるがままに――。


 でも――またそれが崩れるのだろう。そんなことだけが頭に浮かぶ。


「私は私。貴方じゃない……」


 水で満たした湯船に全身を浸し、そこに一滴の血を垂らす。

 髪が血に染まり、ポタポタと、壊れてしまった蛇口から滴るかのような、そんな夜の中で、少女は一人蹲る。


「私は私。きっと、そう……」



 ◇



「はぁ……」


 食事終わりの錆びたカトラリーを片付けながら、ドルクは一人ため息を吐いた。

 その息はやたらと白く見えていく。


 寒くない、白い息が出るほどに寒くはないのだ。

 それでも、そう錯覚させるかの様に見えた。


「ずいぶんと慣れちまったもんだな……」


 ドルクはヒュースの件を考える度に、昔のことを思い出す。

 昔は、この錆びたカトラリーを使って食事をする度に、大変苦労した。

 別に、特段このカトラリーに思い入れがあるわけでもない。


 いや、何十年も使い込んでいれば思い入れの一つでも湧いて来るだろうか。


 フォークの先が欠けたこともあった。

 口の中を擦ったこともあった。


 貰い物、あるいは譲り受けた物。


 一度は、綺麗な状態に戻そうかと考えたことがある。

 しかし、どうもできなかった。


 ここまでの軌跡を消してしまうかのような、そんな感覚が手を止めた。


「…………」


 ドルクは棚の上に置かれた、部下たちの名前と死因が記された手記へと目を向ける。


 一枚めくる。


 ――〇〇――転落死。

 ――○○――轢死。

 ――○○――死因不明。

 ――○○――行方不明。


「……チッ」


 手記を閉じ元あった場所へと戻す。

 そして、すぐ横に置いてある写真へと目を向ける。


「クオーツ……お前が、あの子の傍にいてやった方がよかったんじゃないか?」


 その写真に写っていた人物は五人。

 現、上級狩人のクオーツとその妻、そして不器用に笑うドルク。

 あとは――幼い頃のアンリーと、その一つ上の姉の姿だった。


「全くもって、元気に育っちまったもんでな……だからさんざん言ったんだ。俺ぁ彼女を導けんってな……」


 ――。


 ドルクは低く舌打ちをした。



 ◇



「ふぅ~……」

「クオーツさん」


 一通りの鍛錬を終えたクオーツの元に、一人の青年が姿を現した。


「どうした? アグス。顔がこわばってるぞ」

「……」

「まあいい。どうした?」


 アグスのただならぬ雰囲気を見て、クオーツは優しく声をかける。


「俺の動きを見てくれませんか?」

「……分かった」


 大きく息を吐きながら、返事をする。

 その様子に「では」とすぐにでも始めようとするアグス。


 それをクオーツは静止した。


「まあ、待て。まずは飯でも食わせてくれ。どうだ? お前も食うだろう?」

「え、あ、いえ……俺は」

「がっはっはっはっは!! まあ、そうつれない事を言うな。それにあれだ、クンツァイトにも顔を出してやれ。あの人もお前を心配していたぞ」


 アグスは少し押し黙り――


「……分かりました。ご一緒させてください」

「そうこなっくっちゃな。ほら行くぞ」

「はい」


 クオーツに引きつれられ、アグスは食堂へと向かうこととなった。

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