――.
カツン。
――カツン。
誰もいない塔へと足音がこだまする。
パチパチ――否、そんな生温い音ではなかった。
音が響く。肥大化して、成長していく。
燃えゆる全てを見て、彼女は心の底からの笑みを浮かべた。
「お父様、あの世で見ていますか? いえ、見ていてくださいましたよね?」
時期としては国全体が病に侵され、国王が病魔によって亡くなった直後のこと。
後継となるはずだった者も病に伏せる中、国全体に影響を与えるようになっていた魔術師たちへと白羽の矢が立ったのだ。
――国の頂点に立つ、新たな指導者として。
しかしどうだ。
それからというもの、国はどんどん悪い方へと進んでいった。
確かに当時流行っていた病に対する治療薬の製造、技術体系の確立、インフラの整備といった、これ以上にない恩恵をもたらした。
しかし同時に、彼らは自身らの実力に奢り高ぶっていた。
魔術を生み出し、ここまで魔術師の地位を、魔女が人として扱われるまでに押し上げたディガードを飾りに、彼らは思い思いの研究に興じた。
ディガードが取りまとめようとしても、誰も言うことを聞かないでいた。
何かを通したいのであれば、他の魔術師に取り入り、それらを国の方針として押し通した。
そのくせ、面倒毎は全てディガードに押し付ける。
そんな状況だったからだろう。
魔術師が抱いていた妬み、それらが見えなくなってしまったのは。
「お父様、貴方は私を捕らえましたね。私の力が全てを根源へと還すからと……でも、私はそれはそれでよかったんです」
ロベリアは石造りの壁を優しくなぞるように触れる。
柔らかで温かな指先と、冷たく硬い壁、それらが重なる所から立ち込める煙と高温。
それらが音を立て、不自然な火に変わる。
「とても静かで、穏やかで、お姉さまとは違って不自由ない暮らしをさせていただいていましたから……」
皆から向けられる奇異の目。
それを感じない塔の上。
そこで、全身に風を浴びながら、日に包まれながら、鳥のさえずりを聞きながら、塔から見える自然を、街並みを眺めながら――
「――そうやって読書や睡眠を楽しむ日々は、とても快適で心地よかったのです。邪魔がない。嫌な視線を向けられないとても心地が良かったのです」
ロベリアは捻るように声を出す。
「貴方は私を恐れてた。だから、私をぞんざいには扱わなかった。でも、彼らはどうでしょう。彼らがどれだけちっぽけな存在かも知らないで、借り物の力で慢心し、滑稽ですね」
塔が、崩壊を始める。
轟々と街の遠くからでもよく見えるほどに、燃えている。
「お父様、彼らは私を狭い部屋へと閉じ込め、そこに蛇を入れたりしてきたんですよ。私の力を探るためなどとほざきながら」
ロベリアは嬉しそうに語る。
「私の存在は異質で良くないものだそうです。場内を散歩している際に耳に入って来た言葉です」
ロベリアは、燃え、崩れ、開け放たれた塔の上から街を見下ろし口にする。
「私は虐められてきました。でも耐えていたんですよ……お姉さまが、私に優しくしてくださっていたから」
ロベリアはイフェイオンのことを思い浮かべ、表情を殺す。
「でも、もう無理なんです――」
とても冷たく、炎が燃える。
燃ゆる音で声が絶え絶えになる。
「お姉さまは――扱い――しは、悪い で――」
――――
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――――――――――――
「…………燃えろ、全て、全て、全て全て全て!!!」
ロベリアは涙を流す。
それがすぐさま蒸発し、姿を消す。
荒々しく腕を振る。
振って、振って、振りあげて、涙をぬぐう。
「お父様、もう耐えられませんでした。もう、お姉さまの優しさが苦しくて、憎悪に、妬みに変わってしまったんです……だから――」
だから――――
「全てを壊したくなってしまった」
震える。ゆらゆらと、音を立てながら。
「なんで私だけ、そう思って―――― です。でも、きっと他にも同じような人が居るんでしょうね……」
ロベリアはその場に崩れこみ、叫び、炎を強めていく。
「なんでなんでなんでなんでなんでなんで!!!!!!」
頭を力強く掴み、緩め、指の隙間から地面を見下ろす。
その瞳は完全に死人のそれで、彼女の中で何かが壊れてしまったことを物語っていた。
それに比例して、炎はどんどん強くなる。
燃えていく。憎悪に燃えていく。冷たくなっていく。熱を帯びていく。
「ラン、ラン、ラン、ラン……ふんふふーん、ふーん」
力が抜けて、腕を下す。
そこから徐々にドレスが形成されていく。
ロベリアは頭を振って口ずさむ。
微笑む。
笑う。
歌う。
火。
火
。
「大好きですよ。お姉さま」




