81.過去のひずみ(3)
国王の前で跪くディガード。
彼は今、国王への謁見を行っていた。
「この度は謁見を許可していただき、ありがとうございます。陛下」
「よい。ディガード、お前には期待しているからな」
「これからも日々精進してまいります」
「うむ」
国王は満足げに頷くと、そのままディガードへと問いかける。
「要件は事前に聞いている。イフェイオンの調査に当たりたいそうだな」
ディガードは頭を下げたまま目を瞑る。
そして、ほんの少しの時間を置いて、絞り出した返答を国王へと告げる。
「ええ」
「して、お前に何ができる?」
「現状、私は超常的な力、それらに対し、なんの知識も有しておりません」
国王はディガードをじっと見つめ、ディガードはそれに対して緊張を覚える。
それはまるで蛇ともにつかぬ何かにでも、何処を食べるかをまさぐられているかのような感覚だった。
腹を食うのか、脳を吸うのか、太ももを貪るか。
国王はそんなことは思っていないだろう。
実際、そんなことを告げれば不敬に当たるだろう。
それでも、その恐怖は確かなモノだった。
「何を黙っている? 続けよ」
「……失礼いたしました。私がイフェイオン様と対話を重ね、彼女の力の解明に役立てうる情報を得られればと」
「ほう、貴様にはそれができるというのか?」
「私はイフェイオン様に仕えるべく訓練を重ね、話を重ねてきました」
「私がそのように命じたからな」
国王は嬉しそうに語り、口角をあげる。
ディガードの発言の続きを楽しみにしているのだ。
「……彼女とはある程度の信頼関係を築けている。そう、自負しております」
国王は不敵に笑う。
「ずいぶんな自信じゃないか。ディガードよ」
「そう言い切れないような、ぬるいことはしておりませんので」
「よかろう、許可する」
ディガードは目を見開いた後、瞼を力強く瞑った。
そして、深々と告げる。
「感謝いたします」
「よい。感謝ではなく、私の期待に応えて見せよ」
「はっ」
◇
「それから、ディガードは私の元に毎日のように通い、私の力について色んな質問をしてきました」
リリステナにて、イフェイオンは嬉しそうに当時のことを語る。
「色んなことを質問され、色んなたわいもない話をしました…………いえ、続けましょうか」
楽しそうに語り、何かに気づき、押し黙る。
彼女の声色が、この時ばかりは大きく揺れ動く。
揺れ動き、落ち着き、また揺れ動く。
「…………」
それに対して、シェリーは何かを思いながらも口を出さないし、何もできないでいる。
今は話をしているわけで、その邪魔を出来もしないし、義姉が語ると決めたことに対し、口出しできる程偉くもない。
そもそも、ディガードと言う人物をシェリーは良く知らない。
シェリーにとって、ディガードと言う存在は、自分と義姉を殺そうとしてきた狩人の一人でしかないのだ。
ましてや、千年近くも昔の人物、それも魔女でも何でもない、ただの魔術師が今も生きている。
「……」
シェリーは思う。
何故、魔女である義姉がずっと昔から生きている。
そう聞いても違和感を抱かなかったのに、魔術師である人間が同じくらいの年数を生きていると聞くと、こんなにも違和感を感じるのかと。
自身も、魔女を化け物としか見ていないことを、再度認識させられる。
魔女である自分が……いや、止めよう。
シェリーはふと、マーキュリーの方を見る。
彼女は自身とは違い、ディガードの元についている狩人だ。
そんな彼女の反応が少し気になったのだ。
マーキュリーは怪訝そうな表情を浮かべながら、髪の毛をくるりと弄り、そのままスッと指を下して放してく。
髪が少し伸び、バネのように元の位置へと戻ってく。
マーキュリーはそれを数度続けたのちに、深く息を吐き、視線をそらした。
そこで、シェリーと目が合う。
「……!」
マーキュリーは目を見開き、驚いた後、首をくいと動かし、シェリーにイフェイオンの話に集中するよう無言で語る。
シェリーはそこで、他の視線に気づく。アンリーだ。
アンリーもマーキュリーの方を見ていたのだ。
「…………」
シェリーはマーキュリーに一つ、頷き視線をイフェイオンへと戻していく。
アンリーもハッとしたように、視線をイフェイオンへと戻す。
マーキュリーもそれを見て、視線をイフェイオンへと向ける。
この場の空気はどこか異質だった。
決して重たいわけでもない。
苦しいわけでもない。
何かを感じ取れるというわけではない。
それでも、異質だということだけが伝わる空気の中で、またイフェイオンの話が始まるのだ。
「ディガードとの対話を重ね、魔女と言う存在が明確に作られ、国の在り方が変わり始めてしばらくしてからでした。ロベリアの力が発覚したのは――」




