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81.過去のひずみ(2)


 国王はひとしきりの演説を終え、騎士たちへと具体的な指示を出していた。


「まずは、私の身内を洗い出せ。イフェイオン同様に、私の血縁にこのような力を有した者が居るかもしれない」


 何の疑念も示すことなく、国王は淡々と告げ、それらに騎士たちは納得の色を示す。


「此度の一件により、警戒されているやもしれん。が、それであれば問題はない」


 そのような奇妙な力の使用を、暫くの間抑え、彼らが理解するまでの時間稼ぎができるようになるのだから。


「仮にイフェイオンへと接触をしようとするようであれば、そこを捕らえればよい。とにかく今、一番懸念すべき点は――」


 国王は平然と嘘をつく。


「――それら奇怪な力を扱う者が潜伏することにある。されども、決してこちらから暴こうとするではないぞ」


 現状、騎士の中にもそれら奇妙な力を扱えるものが居るかもしれない。

 あるいは潜伏しているかも知れない状態で、全てを話すのにはリスクがあった。


 正直な所、あの力を国王が扱えるとは、制御することが出来るとは、彼自身微塵も思っていないのだ。

 しかし、制御できないからと言って、管理することを放棄することもできるわけがない。


 それは、上に立つものとしての責任ともいえようか。


 未知。人には早すぎる力、それらを恐れ、罰しているだけでは駄目なのだ。

 それらが必ずしも人に繁栄をもたらすとは言わない。

 しかしながら、人に何かしらの影響を与えることが確実である以上、それらに切に向き合い、悪用されないようにルールを設けるべきであるのだ。


「ここは私の国である。皆よ、私の意見に従うのだ。己の判断だけで行動するな。よいな?」

「「「「はッ!!」」」」


 国王は、内心で切に思う。

 今、一番恐れるべきことは――この力が、なんの準備も無しに民衆に知れ渡ることにある、と。



 ◇



「さて……陛下のことだ。また何かしら考えているのだろうが……どうしたものか」


 先の一件が片付き、イフェイオンは幽閉されることとなった。

 それを受け、ディガードは考える。


 どうすれば、彼女の自由が約束されるのかと。


 彼にとって、彼女の力と言うのは確かに驚くに足りるものであった。

 しかしながら、彼女の自由を奪うのに足りうる理由にはならない。そうも思うのだ。


「俺にできることを考えよう。陛下は立場ではなく、結果や信頼、可能性を重視する。であれば、彼女を助けることは十分にできるだろう」


 ディガードはイフェイオンを守るための騎士ではある。

 しかし、このころはまだ騎士団の副団長というわけでもなく、できる行動、発言の影響力が少なかった。


 それでも、彼は決意する。

 イフェイオン。彼女を守る騎士として、彼女の自由を取り戻すと――



 ◇



 その頃、ディガードの弟にあたるアレンダートは薬の調合を行っていた。


「おい、アレンダート。聞いたか?」

「何ですか?」

「イフェイオン様が未知の病に伏せているらしい」


 同僚からそんな話が飛んでくる。

 アレンダートもこの件については何も知らされておらず、気になる所ではあった。

 なんせ、兄が関係する人物……王族の名前であるのだから。


「……らしいですね」

「おかしいと思わないか? 未知の病だというのに、俺らに薬の調合依頼の話などが出ていない」

「まだ、診断が終わっていないんでしょう」


 ただ平然と、同僚とアレンダートは話を続ける。


「この前の騒動、覚えているか? ほら、城の中に化け物が出たってやつ……」

「まあ、覚えてはいますけど」

「それと何かしら関係でもあんのかね?」


 アレンダートの手が止まる。


「さあ、知りませんよ。そんなの」


 アレンダートは同僚をしばらく見つめた後、窓の外を見た。

 鳥が青空を悠々と羽ばたいているのが見える。


 彼自身、ここ最近の出来事の中で、この話題が一番不気味だと思う。

 それでも、踏み入ってはいけないのではないか。

 そんな不安もあるのだ。


 きっと国王陛下のことだから、何かがあってもいつの間にか解決しているだろうなんて思いもある。

 それに、自身の兄が、仮に何かに巻き込まれていたとしても、きっとうまく立ち回っているだろうとも。


 ……きっと自身が同じ状況に置かれた場合は、何もできないだろうな。

 そんなことをアレンダートは考え、自嘲気味に口角をあげる。


「それよりも――」

「ん? なんだよ?」

「この手の話は不敬に当たりますよ。上の人へと報告しましょうか?」

「おいおい、ちょっと待ってくれよ。悪かった悪かったから、そう脅さないでくれ」


 同僚のあまりの慌てぶりに、アレンダートは少し不機嫌そうにする。

 同僚は同僚で、またかといった様子を示しながらもその心境は、穏やかそのものだった。

 つまるところ、彼らの仲はそう悪くはないのだ。


「何ですか、その言い方は」

「はぁ……まあ、何でもねえよ」

「ふっ、ほら作業に戻りますよ」

「はいよ」


 二人は、また仕事へと戻るのであった。

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