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81.過去のひずみ(1)


 リリステナにて、イフェイオンは淡々と語る。


「その戦いを得て、国王は私を閉じ込め、他にも私のような存在がいないかの調査を行いました。最も、あの人にとっては、閉じ込めたわけではないのでしょうが――」


 ――騎士たちが鎖の異形に勝利してすぐ、国王は命一杯の拍手を表情を変えずに行った。

 そして、それを皮切りに巻き起こる、周囲の騎士たちによる拍手喝采の雨。


 それは、さもありなんとでも言ったような雰囲気だった。


「よく持ちこたえたな。貴様らには後程褒美を送ろう」

「いえ、滅相もありません」

「よい」


 勝者となった二人の騎士の返答に、興味がなさそうに手をはらう国王。


「はッ」

「そしてイフェイオン」

「! ……はい……何でしょうか」


 イフェイオンは肩を跳ねた後、怯みながらに答えを絞り出す。


「貴様の力は私では御せない事が良く分かった。貴様の力が判明するまでの間、我が騎士団の監視下へと置くこととする」

「……それは…………」

「何、貴様の平穏が脅かされぬようにするための処置だ。許しなさい」


 イフェイオンの喉に何かが引っかかり、言葉が、腹の奥から出かかった。

 しかしながらに、この口は、この頭は押し黙ることを選び抜く。


「分かりました」

「よろしい」


 国王はにこやかに、穏やかに笑う。


「それと、皆に告げる。この戦いを見て何を感じ取った? これらの存在が他に居るとして、勝てると思ったか?」


 国王は機械的に感情を発する。


「恐ろしいと、悍ましいと思ったか? 家族の、民の心配をしたか? ただ漠然と受け入れがたいと思ったか? それらは全て――」


 国王は一呼吸を入れた後に、やや感情的に訴えかける。


「それらは全て正しい。であれば、何故それらが正しいのかを我らは真に考えるべきである。意味が分からぬか。理解が出来ぬか? であれば、今から伝える言葉をよく聞くのだ」


 国王は言葉に、更に感情を託してく。

 道具として、より言葉が広範囲に伝播していくために、それらを利用する。


「それらはひとえに我らが無知故に起きること。しかしながらに、無知を恥じるな。恐れるな。思考を止めるな。我らは全てを支配しうる可能性を秘めた人間である。であれば突き進もうではないか。共に、この無知と言う名の大海原へと! 我ら人間が! 我が王国が繁栄を繰り返してきた手段をもって、この無知を踏破しようではないか!!」


 それらは、一見何を伝えたいのかが分からない演説だった。

 しかしながらに、この場に居る騎士の皆は、そんなことを考えない。


 それらしい言葉を並べ、それらしい威厳を示し、適したタイミングで感情をぶつける。

 それらを彼らは疑わない。


 自分たちをこんなにも素晴らしい王が信じてくれている。

 この王には他にはない野望がある。

 騎士たちが勝手にそう思い込むのであれば、国王としては何ら問題がないのだ。


「さあ! 皆よ!!」


 彼にとって、真っ当な理由と言うものは、後になってついて来るものでしかない。

 今、騎士たちの気持ちを高ぶらせ、信じさせ、大きなことを成していく。

 さすれば、あとから彼らが疑問を抱いたとて、結果が出ていると納得を示すのだから。


「このような力を有すものが他にもいるかもしれない! ゆっくりと丁寧に、悟られることなく探し出せ! そしてそれらの動向を深く観察するのだ!」


 騎士たちが一斉に姿勢を正し、敬意を示す。

 他者への理解などは不要である。


「貴様らの価値を我に存分に示すがいい!!」

「「「「我が王へと栄光を!!! 絶対的な忠誠を!!!」」」」


 人の心、その働きさえ理解してれば、それでいい――。



 ◇



「あの人は、あの国王は、自身は熱を持ちえないというのに、他人を扇動することには、熱中させることには長けていました」


 イフェイオンは当時のことを語りながら、気持ち悪いとでも言いたげな表情を浮かべる。

 それの血が、自身の身にも流れていることを疎ましく思う。


「分からないな……」

「……分からないとは?」


 フランクウッドの問いかけに、イフェイオンは少し不機嫌そうに言葉を返す。


「話を聞く限りでは、その王はうまく立ち回っていたように思えます。最も、繁栄と滅亡を併せ持っていそうだとも直感的には思うのですが……」


 イフェイオンは内心で思う。自身では思ってもいない言葉を、この場の人間の為に代弁しているのだろうと。

 苦手だ。


 イフェイオンは視線を落とし、断りを入れた。


「疑問は分かります。それはそれとして、順を追って説明しますので、もう少しお聞きください」

「分かりました。そうしましょう」

「では、続けます――」

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