80.覚醒
約3200字程。
上から振り下ろされた一撃に、二人の騎士は回避を余儀なくされた。
「クソッ……!!」
半ば飛び込む形で左右に散らばり、そのまま転がりながら態勢を立て直そうとする騎士たち。
土埃が舞い上がる。
そこから飛び散る抉れた地面。
それらが鋭利に、観客の騎士たちへと向かって飛んでいく。
しかしながら彼らも精鋭と言って差支えはない。
一つ一つを剣で斬り伏せ、叩き落としていく。
「レハズ、カタ、ナ」
鎖の魔人とでも言うべきそれの攻撃を間一髪で避けた……否、二人は理解していた。
あれの目的は自分たち二人を捕らえることであって、殺すことではない。
と――
「――来るッ!」
鎖が腕を胸元へとぐっと持ってくる。
そのまま外へと力強く広げるように振り広げ、その指先から無数の鎖が周囲を凪ぐかの様に広がっていく。
立て直そうとしたところに、間髪入れづに飛んできたそれに、騎士たちはまたしても態勢を崩して回避へと専念する。
この状況に、苦し気な表情を浮かべる騎士たちを見て、周囲の騎士たちは不安の色を浮かべる。
負けるかもしれない。
そんな思考が脳裏に過る。
イフェイオンはやはりと言った表情で、鎖は、騎士たちをしっかりと観察したいといった様子で、この状況と向き合っている。
しかし、そんな中でも彼らの勝利を疑わなかった者がいた。
「――何をしている。貴様らは私が選んだ騎士たちだぞ!!」
酷く響く声。
その振動が皆へと伝わり、鎖も思わずそちらへと視線を移す。
そこには、玉座から立ち上がり、左腕を横へと力強く振り広げ、勇ましく激励を投げかける、一人の国王の姿があった。
空気が震える、騎士たちの芯のそこから熱い何かが湧き上がる。
「貴様らは戦える!! 何故ならば! この私が二人で足りると判断した精鋭なのだから!! そして貴様らは私を信じよ!!」
「「……!!」」
「よいか!!」
国王は表情を強め、覇気を高める。
「闘志を捨てるな! 不死身の精鋭たちよ! 鋼を貫く意志たちよ!! 我が同胞よ!! 私を信じ、前を向け!! 私を信じ、突き進め!! 敗北を恐れるな!! 真に恐れるは己への諦めと知れ!! 可能性に貪欲であれ!! それが分かれば――」
「「「――突き進め!!」」」
「ギ?」
歓声が沸き上がる。
熱い思いが、闘志が、彼らのそこから巻き起こる!!
――行け!
己を信じ、前を向け!
――行け!
最小すらも掴み抜け!!
――行け!
未来を信じ、走り出せ!!
――行け!
思考は止めぬ。諦めもせぬ。我らは!! 王へと誓った鋼の意志である!!!!
「「代行者よ!! 突き進め!!」」
「「「「突き進め!!」」」」
鎖は、この戦いで初めて恐れを感じ取った。
周囲の歓声が、地面へと伏せながらも、手を力強く叩きながら叫ぶ相手の姿が、そして何より――
「トノヒヲトコリワ、エテイコル……キ……キ!」
――そこに佇む王の姿が悍ましい。
無機質で、力強く、可能性だけに取り憑かれたかのようなその眼差しが、眩しい恐怖を引き起こす。
「キ! キ! キ……!!」
鎖が取り乱す。
「「おい、鎖野郎」」
その拍子に立ち上がる二人の騎士たちの声を聞き、鎖は焦り周囲を見回す。
分断するために放っていた攻撃、それらが全て悪手に転じた。
そう、鎖は理解する。
「イズル! イズル! ウキョノモヒ!!」
「何言ってるか分かんねえな……」
「さっきまではてめえが怖くて仕方なかったさ……だがな、こっちにも負けらんねえ理由が出来たんだ!!」
「「さあ! 骨の髄までしゃぶりつくそうぜ!!」」
鎖は一歩後退る。
騎士たちの姿はまるで、勝利に飢えた獣の様だった。
鎖の視界。明滅を繰り返す。
獣か人か、死者か生者か、亡霊か――
鎖の視界に、二匹の化け物が現れる。
後ろの玉座から、それらを束ねる王の気配をピリピリと感じてしまう。
「ギ! ギ! ギ!!」
鎖が地面へと向けて鎖を伸ばす。
それらはタコの様に絡まり、上方へと彼の体を押し上げる。
鎖はそのまま、片腕で天井へと張り付き、騎士たちを見下ろし威嚇をしようと――
「――させっかよ……!!」
鎖の視界、そこへと迫る石の破片。
それは、先ほど彼が砕いた地面の欠片だった。
その一つを騎士の一人が掴み、こちらへと投げてきたのだ。
「ギ!!?」
鈍い音がする。激しい衝撃が、痛みが、鎖の楕円の空洞へと響いてく。
反響を繰り返す。
恐怖が衝撃が、鎖の思考を鈍らせる。
判断を遅らせる。
決して力では負けていない。それどころか圧倒しているはずの人間二人に負けそうになる。
――何故、奴らは突き進む?
「ギ?」
――負ける?
この自分が?
「こんなちっぽけな人間に?」
「待って!! 何を!?」
イフェイオンが叫び声をあげる。
鎖が地面へと落ちる間際、彼は横に倒れた姿勢のまま鎖を器用に使い、衝撃を吸収する。
そして倒れた上半身はそのままに、足で地面を踏みしめる。
人間では到底できないような、その場に立ったまま飛んでくる矢を器用に避けるかの様に、鎖はその場に静止した。
「何故、私が恐れているのだ……」
「……そう来なくっちゃな…………」
「ああ、全くだ」
騎士たちは冷静に目の前の事象を受け入れる。
鎖が上体を起こす。
「さあ――」
鎖の頭部に切れ目が入り、それらが綺麗に、クリオネの様に割れていく。
「ケリを付けようか――人の子よ」
「ワクワクしてきたぜ……!!」
イフェイオンが一抹の不安を覚える中、周囲の熱意だけが強まっていく。
鎖の動きが変わる。
鎖が足をあげ、地面に強く踏みつける。
そこから伝わる衝撃に乗り、足から鎖が伸びていく。
相手の足場を奪う為、それらは騎士を目掛けて伸びていく。
「連携を取るぞ」
「あくまで冷静に……だろ?」
「分かってるならそれでいい」
騎士たちが足元へと伸びてくる鎖を、軽やかなステップで避けていく。
それを見て、鎖は腕を前方へと付きのばす。
そこから勢いよく噴出される、ナイフ程の幅をした鎖たち。
それらが上下に、左右に前後に揺れる。
騎士たちがそれらを避けながら、隙をついて鎖に向かって詰めていく。
激しい攻防。それを見て、イフェイオンは感じ取る。ついて行けないと。
しかし、当の本人たちは、至極冷静だった。
数秒数秒がゆっくり感じる。
視界がはっきり、クリアに見える。
――ッ
騎士の切先が、鎖が新たに生み出した剣へとぶつかる。
足元がおぼつかない中、もう一人の騎士が攻撃に参加する。
それを――ッ
最初の騎士を弾いて防ぐ。
「化物が!」
「お前たちも大概だ!」
上、下、左、右、右、右、左――からの一撃。
――弾く。
――叩く。
――詰めていく。
――二人掛かりで詰めていく。
「くっ! ちょこまかと……! 何故、鎖に当たらない!」
「えらく流暢に話せるようになったようだが、こちとら経験が違うんだよ!!」
「ま、お前みたいな化け物との対峙は初めてだがな……!!」
左右から挟まれた鎖は、いよいよ圧され――
「ここまでだ――」
「そのようだ……」
二つの切先が、パカリと開いた鎖の頭部を貫いた。
鎖の腕から力が抜け、ぶらりと垂れる。
蠢いていた鎖が動きを止める。
鎖の体が崩れてく……――
「見事だ。二人とも……暫し休むことを許可しよう」
――勝敗は決したのであった。
今後は、文字数が2000字から大きく外れる回が増えていくかもしれません。




