79.私が知ること(2)
「素晴らしい。そう思った具体的な理由は何かな? 答えなさい」
「枷は拘束することに長けていますから……皆さんの動きを封じられるだろうな……と」
国王は少し考える。
「そうか、であればその力は、君のイメージが強く影響するということか」
「……おそらくは」
「その力で、この城を生物へと変えることは可能か?」
イフェイオンは、静かに首を横へと振る。
「あまりにも大きいので……無理です」
「なるほど……よかろう。では――」
国王は至極当然と言った様子で、高らかに言う。
「では――その手枷の生物を生み出しなさい」
イフェイオンが周囲を見渡せば、国王の命令に対し、周りの騎士たちが動揺の色を見せているのが窺える。
そしてイフェイオンは再び、国王へと視線を移す。
すると国王はただ、淡々と傍に仕えていた者たちへと指示を出し、魔女が生み出す生命と戦わせるための騎士を選び出す。
「……あの……本当によろしいのでしょうか?」
それはイフェイオンが、心配故に発した問いかけだった。
それに対して、国王は、イフェイオンの方へと、ゆっくりと、向き直る。
「何度も言わせるな」
その声は酷く冷たく、焦点はイフェイオンを捕らえているにも関わらず、彼女を見ていない。
そんな雰囲気を漂わせている。
恐ろしく、悍ましい。
それが、彼女が国王へと抱く印象だった。
それと同時にこうも思う。統率者としては優秀なのだろうと……。
彼女は彼を、彼は彼女を、家族として見ていない。
それに尽きるだろう。
「…………分かりました、お父様」
「よろしい」
国王は表情一つ変えず、にこやかに答えた。
それに対して、イフェイオンは下を向く。
もう、彼とは目を合わせたくない。
そう思うのだ。
「では――始めなさい」
イフェイオンが今から生み出す鎖の生命と戦わせるべくして、二人の騎士が編成された。
それに対し、イフェイオンは手枷へとゆっくり触れる。
「今、生み出しております……暫し、お待ちを」
「「……」」
それはイフェイオンと相対している騎士には、見えもしない動きだった。
彼女が触れた手枷がゆっくりと形を変える。
それは、落ちないようにと――蛹が如く、木にしがみ付く蛇が如く、筒の様な形状で、彼女の腕へと纏わりつく。
正面から見れば、まだ、手枷をかけられたままの様にも見えるのだ。
そう、正面から見れば……。
「来る」
「ああ……」
騎士たちが互いにコミュニケーションを取り合い、互いに間隔をあけて臨戦態勢へと入るのを見て、イフェイオンは少し悲し気な表情を浮かべた。
「行きます……――」
――ジャラ。
そんな音が、何かが落ちた音がした。
一瞬、地面を何かが擦ったかのような音がした。
騎士の一人は、視認が困難。そう判断し、目を閉じ、耳を傾ける。
そして、剣にかけた手を一気に脱力させ――
――刹那――
それは刹那に起こったことだった。
「流石は見事……」
周囲に吹き荒む暴風で髪をなびかせながら、国王がそう――口にし、ニヤリと笑う。
髪の毛の様になびく鎖に、中央に空いた大きな楕円。
それの縁が眩く、白く発光し、頭には三角形の帽子のようなものが乗っている。
今で言えば、海賊とでも表現できそうな容姿のそれは、鎖で形成された腕を、騎士の死角から瞬時に伸ばす。
指先から伸びる蠢く鎖。それが騎士の眼前へと激しく映る――が、騎士もまた意地を見せる。
鎖の腕と切先、それが刹那にぶつかり合って、激しい音を出す。
――押し合いでは負ける。
「不利か……」
一秒に満たない瞬時の判断。
騎士は剣を手放し、くるりと回る。
鎖の側面、そこに瞬時に到達し、回転を利用し鎖に対し蹴りを見回す――
「ギギ……」
鈍い音、うるさい金属音、ジャラリと嫌な音がする。
よろめく鎖。
一瞬の隙。しかし、それに対して追撃はしない。
剣を失った騎士の足元へと転がる剣。
それは相方からのパスである。
相方が使っていた剣、それをすぐに自身の方へと転がして、相方は自身が失った剣をすぐさま取りに向かってくれる。
「最小限の動きで抑えるぞ」
「了解した」
左右から挟む形で鎖を囲む、二人の騎士。
それを交互に見回す鎖は、首を傾げ、少し考え――理解する。
「ギギ、ワマレ、サミハ、ウクキョリョ……リ!」
ゾワリと背筋に寒気が走る。
何を言っているのかは、分からない。
しかし、あの生物の中では確かに存在しているであろう、独自の言語。
確かな知性に、前後の挙動。
それらが総合的に絡み合い、並々ならぬ悪寒に変わる。
虫の知らせとでも言うべきか……。
そんなことを、二人の騎士は考える。
「これは……骨が折れそうだ」
「お互いカバーし合えば……可能性はあるさ。そうだろう……」
「可能性か……あるなら十分――」
――第二ラウンドが、今始まる――




