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79.私が知ること(1)


 蛇がうとうとととぐろを巻いて、鳥が歌い、空き瓶ほどの小人が奇妙に踊って笑ってる。

 それらに囲まれ、にこやかに笑う女性。


 その笑顔が、とても眩しくて、同時にとても悍ましいものに見えた。

 そう、侍女は語っていた。


「イフェイオン様……申し訳ございません。暫し、このままでお願いします」

「ええ……」


 手を後ろに拘束され、罪人の様に歩かされる一国の王女。

 それを気まずそうに見送る騎士たちを横目に、イフェイオンは歩く。


「私はどうなるのでしょうか?」

「……それは……陛下のみが知る所ですので……何とも」

「そうですか」


 空は晴れていた。


「今日の天気は、気持ちが良さそうですね」


 イフェイオンはガラスから差し込む、光を晴天を見つめ、そう呟いた。


「ええ……申し訳ありません」

「いえ……」


 騎士に対して意地悪をしたかったわけではない。

 しかし、その呟きが彼にとって心苦しいものになってしまったことに気づき、イフェイオンは静かに目を閉じ、前へと向き直る。

 そこには国王が待つ部屋へと繋がる大扉が、堂々とした立ち振る舞いを見せている。


 きっと、この扉は力持ちなのだろう。


 ――そんなことを、イフェイオンは考える。


「魔女が入室いたします。皆様、お下がりください」


 そんな声が大扉の奥から聞こえてくる。

 不安も、焦りも、怒りもない。ただ、イフェイオンは、この力がいけないものだったのか……そんなことを考えていた。


 生まれ持った力……なのかも分からないが、とにかく話相手が欲しかった。

 孤独を紛らわせたかった。

 もっと誰かと一緒に居たかった。


 それを叶えられるだけの力が、自分にはあった。

 だから使った。それに限る。


 ただ……理解されなかった。

 のだろうか……。


 彼女は一国の王女であるにも関わらず、半ば放置気味の教育を受けてきた。

 たまに一人の少年が遊びに来てくれていたりはしたものの、そんな状態のまま幼少期を育ってきた彼女は、情緒が育ち切っていなかったようにも感じる。


 傍にいた大人たち……いや、雇われの身で自身の主である国王に意見することもできない。

 それらの責任を、周囲の人物に押し付けるというのも酷なものだろう。


「行きましょう」

「ええ」


 扉が開かれ、そこで待つ彼女の父と――国王と目が合った。


「よく来たな、イフェイオン」


 渋く大らかな声。

 筋肉質な体つきに、堀の深い顔の男。

 彼は髭を手で弄りながら、彼が周囲に向ける視線と同じものを、自身の娘であるイフェイオンへと向ける。


 彼こそが、この国の国王に当たる。


「お久しぶりです。お父様……このような状態ゆえぎこちない挨拶となってしまい、申し訳ございません」

「よい、気にするな。それよりも、その枷を生き物へと変えることは可能なのか?」


 報告は受けているとでも言いたげに、彼はイフェイオンへと語りかける。


「それは……」

「――答えなさい」

「できます」


 国王は一つ頷き、イフェイオンへと問いかける。


「何にできる」

「……何でしょう……」

「何でしょう……か。と言うと複数の選択肢があるということか?」


 イフェイオンは少し考え、戸惑うように声を出す。

 「それを聞いて何になるのか」と――


「――何になるのか?」


 空気が凍る。

 その言葉は酷く機械的で、その目からは情を、人の温かみと言うものを感じられないでいた。


「……はい、私からしたら……その、これは当たり前の力です……」

「話しにならない。私は君の才が何か、それをしっかりと聞いてあげようとしているのだ。それをそのように返すか」

「それは……」


 国王はにこやかに笑う。


「もう一度チャンスをあげよう。その手枷を生物に変えられるそうだね。変えられる生物には選択肢があるのかね?」

「選択肢……と言うよりは、私がどう思ったか、どうしたいかで変えられます……」

「なるほど? じゃあ、その手枷は何に変えられそうだというのか、君が一番強いと思うもので答えなさい。これは命令だ」


 イフェイオンは少し尻込みしたように、言葉を発する。


「ジャラジャラとした……鎖の人……でしょうか?」

「それはここに居る騎士たちよりも強いのか?」


 イフェイオンは考え込んだ。

 そのやり取りを見た騎士たちの間に、緊張が走る。


 無機質な王と、有機的な生命を生み出す魔女。

 そんな二人が織りなす、どこか嚙み合わない会話。

 親子であってそう見えず、それでいて確かに親子であると思わせる不気味なやり取り。


 その場の一人が固唾を呑んだ。


「答えは――【はい】――です……」

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