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76.さざめく視線


 魔女によって攫われた人々が集められた広場では、各々の身元と住んでいた場所の確認、あの日起きたことの聞き取り。

 それらが可能な範囲で行われていた。


 ただ、当然と言うべきなのかは分からないが、そんな中で、取り乱してしまう人もいる。


 到底人の理解が及ばない不気味な姿の怪物に襲われ、触れられ、死にかけた。

 それらがもたらすトラウマと言うのは、計り知れないものだろう。


 そんなことをカトールは考えながら、当たりを見渡してみる。


「もう、いや……また、アレが出てくるかもしれないのよ!? あんたたちがしっかりしないから!!」


 女性が狩人に対して、暴言を捲し立てながら、彼らの襟元を掴む。

 それに対して、狩人は困惑したような、申し訳なさそうな表情を浮かべる。


 カトールには、あの取り乱している女性の言い分も、痛いほど分かる。

 ただ、それはそれとして、あんな化け物たちと戦う勇気は、自分にはないんだということを、あの日思い知ってしまった。


 怒りがこみ上げようと、魔女に狙われ殺されそうになって……必死に逃げ惑った。


 情けがない。


 ふと、他も見渡してみる。


「……あれは…………」


 そこに居たのは一人の老人。

 杖を持ち、シワシワの肌で、いつ死んでもおかしくないんじゃないか。そんな印象を与える一人の老人だ。

 名は確か――


「――フランバートさん、落ち着いて……もう、魔女は居ませんから」

「火だ……私は火を見たんだ……罪火の魔女は何処にいるんだ!?」

「…………大丈夫です。罪火の魔女はここにはいませんから」


 弱々しく崩れそうになるフランバートを狩人の一人が必死に支える。

 その狩人の表情はとても悔しそうなものだった。


「大丈夫です……いつか必ず……罪火の魔女を我々が殺します」


 その声はカトールには聞こえなかった。

 ただ、狩人の真剣そうな決意に満ちた表情と、それを聞いたであろうフランバートの目を見開いたかのような表情に、どことなく嫌な予感を抱いたのだ。


「殺す……? とんでもない!? やめてくれ……!! あの子を、殺さないでくれ……!!」


 フランバートのその必死な訴えに、狩人は一瞬よろめき、困惑の色を示した。


「まずい……」


 カトールは歩調を強め、そのまま走り出す。


「フランバートさん……それは一体どういう……?」

「どうも何も、あの子は――」

「――ああ、すみません。この方は……魔女にお孫さんを……その……」


 カトールは言葉を濁しながら、狩人に対して何かを察してくれと言った雰囲気を見せる。

 その様子に狩人も我を取り戻し、その白い制服を整える。


「ええ、お気持ちはわかります。また後程お伺いしますので、その際に改めてあなたの住所を教えていただきたい」

「……ご苦労様です」


 カトールは去っていく狩人を見つめ、そう呟いたあと、フランバートへと向き直る。


「……えっと……お久しぶり……です」

「あ、ああ。カトール君だったか……」


 フランバートは少し、バツが悪そうに言葉を詰まらせる。


「見苦しい所を見せてしまったね……」


 フランバートは一つ断りを入れると、震える腕で杖をしっかりと握りしめ、歩き出そうとする。


「あの、どちらへ……?」

「何処だろうね……少し、いや。本当に何処に行こうとしているんだろうか……」


 気まずい空気が二人の間へと広がった。


「…………あの」

「……何かな?」

「俺でよければ、話くらいは聞きますよ」



 ◇



「人を守るべき立場の人間として、あの対応は褒められた物じゃなかったな……」

「気にするな、俺たちにとって、罪火の魔女は殺さないといけない存在なんだ」


 先ほどフランバートの対応に当たっていた狩人の二人がそんな話をしていた。


「――何故? 何故、罪火の魔女を殺さなければならないんだ?」

「罪火の魔女は人々の恐怖の象徴になってしまった。俺たちがふがいないばかりに」

「――ああ、全くだ」


 彼らの会話に混ざる、同じ姿をした人影たち。

 それらに、彼らは気づかない。

 まるで、元々そこに居たかのように、そこに居るのが自然かの様に、自身の幻影を無視して話す。


「そうだな……俺たちが……やはり、あの爺さんには悪いことをした……」

「――俺たちが悪いというのに八つ当たりか?」

「また、謝りに行こう」


 視線が見つめる。視線が笑う。視線がそろい、そこへと集ま――


「ああ、そうだな……それと、ありがとう。助かるよ」

「気にするな、お互い様だろ?」

「――そんなに落ち込んで、何かあったのか?」


 幻影が風に乗って消える。

 一歩大地を踏みしめ、前へと進む。


「ああ、コンスタンス……いや、少しな」

「なんというか、民間人と少し揉めてな……」

「……そうか。誰と揉めたか詳細を頼む。少し様子を見てこよう」


 普段のことながら、どこか感情の読みづらいコンスタンスに戸惑いの色をみせながらも、狩人はフランバートが居る方へと指を指す。


「……あ、ああ。頼む。あそこの爺さんだ」

「そうか、じゃあ。行ってくる」

「ああ…………」

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