75.回顧
「だが、あの日は一体何だったのか……」
「俺は、また同じことが起きるんじゃないって不安でしょうがないよ……」
他の狩人たちの会話を聞きながら、コンスタンスは歩く。
目的地は、魔女によってこの地に連れてこられた人たちの元だ。
と言うのもコンスタンスには少し、気になることがあったのだ。
それは――魔女が彼らをここへと連れてきた理由。
それに尽きる。
元来、魔女と言うのは、正体が露わになった際に、欲望に忠実になる。
これは狩人たちが魔女という存在と対峙し、調べ、たどり着いた考えだ。
そこに間違いはない。
そう、信じたい気持ちがコンスタンスにはある。
しかしながら、しかしながらだ。
閲覧した資料から読み取った、かの魔女の行動は、欲望的な衝動ではないように思えたのだ。
人を攫っては消え、また現れ、人を攫う。
ここは理解のできない行動だ。
しかし、その行き先が全員この街だという。
それに、エレナ・クロードに擬態していた魔女が、逃げ込むかもしれない場所として考えられていたのがここだ。
たまたまの偶然とも考えられる。
しかしながら、偶然と言うにはあまりにも出来すぎている気もするのだ。
後は、他の魔女と交戦していたという記録だろうか。
前代未聞の魔女被害――複数の魔女が同時に現れ、街を飲み込もうとした訳だが、魔女同士での交戦はかの魔女の他に見なかったという。
最も、何か確信があるわけではない。
ただ、どうも――
――きな臭い。
そう、思うのだ。
「……怖いな」
コンスタンスは、ポツリと言葉を漏らす。
考えてしまうのだ。
もし、魔女となった後も理知的に行動できる存在が現れたとしたら。
それが、何かしらの人為的な作為によるものだとしたら。
協会内部にそれらと繋がっている人物がいるとしたら。
そんな不安が、ぐるぐると思考を惑わせる。
「……」
ロイシアン。もし、上級狩人がそれに加担しているとすれば、自分のような存在に、何か抵抗できるものがあるのだろうか。
「おい、コンスタンス。魔術をそんな風に扱うな……」
「そんなに気に入ったってなら、もう一つ頼めよ……」
「お姉さん! 美人さんっすね。俺と一杯どうですか?」
悩んでいたコンスタンスの目の前に現れる、一つの幻覚。
それは、かつて仲間と共に酒を楽しんでいた頃の、何気のない記憶。
食事をゆっくりと楽しもうとする、アビマード。
食事や酒よりもナンパに走るヒプレレア。
皆の父親的なポジションに落ち着くフォドゥーカ。
食い意地の張ったコンスタンス。
そしてどこか距離がありながらも、二人で過ごすことの多かったホームバイツとホーンロッツ。
他にもいろんな仲間が席についていた。
その中でも、コンスタンスが一番時間を共に過ごしたのは、最初の三人だ。
アビマード、ヒプレレア、フォドゥーカこの三人だ。
そんな三人に囲まれながら、魔術で食事を取り分けたり、奪い取ったりと好き勝手にやっている自身の姿。
そんな姿を見て、コンスタンスの緊張がゆるむ。
「ふ……俺は相変わらず最低だな……確かこの後……」
この後、ヒプレレアが女性を捕まえるのだ。
「私と飲んでくれるって言うの? でも、私。酔ったら暴れちゃうかもよ?」
「いやもう、全然オーケー。お姉さんみたいな綺麗な人と飲めるだけで、めちゃくちゃ嬉しいからさ!」
子犬の様に笑うヒプレレアと、その様子を見て呆れるアビマードと、興味深そうにそれを見ているフォドゥーカ。
コンスタンスはどうやら、食事に手を付け、夢中になっている最中だったらしい。
「へぇ~? 言ってくれんじゃん?」
それは綺麗な女性だ。
スラっとしたスタイルで、長い髪が綺麗な――筋肉質な女性だ。
「じゃあさ、私が酔った時に受け止めてくれるのか試してもいい?」
「そりゃもちろん! どんと来て……へ?」
ヒプレレアは女性の足と顔を交互に二度見する。
それは何故か――彼女がその逞しい脚で、何かを蹴ろうとしているのが見て取れるからだ。
その対象はおそらく――ヒプレレア。
彼の額から汗が垂れ流れる。
「受け止められたら、一緒に飲んでくれるということで……?」
「うん、そうだよ。だから、頑張って受け止めてね?」
女性は髪をかき上げ、ヒプレレアに向けて笑うのだ。
その様子に、仕草に、ヒプレレアはやる気を燃やす。
闘志を燃やす。「男に二言はない」と吐き散らす。
「よっしゃ! やってや――グホッ!!!」
――決意を固めたと同時、ヒプレレアの横腹にめり込む、重厚な質量。
その衝撃に、悶え、蹲るヒプレレアとそれを心配するアビマード。
「ヒプレレアー!!」
そのどこかコメディチックな、アビマードと、ヒプレレアのやり取りを見て笑うフォドゥーカ。
その様子に、ようやく「何事か」と興味を示したコンスタンス。
――懐かしい。
女性はそのあと、「これじゃ安心できないわ」とヒプレレアに。
そしてヒプレレアは「次会った時には、受け止めますからね!」などと青ざめ、悶えながらも答える。
女性が笑い、投げキッスを行い、アビマードが涙を流しながらヒプレレアを介抱する……。
「…………ああ……本当に、懐かしい……」
コンスタンスはその光景を懐かしみ、そうこぼした直後に現れた、自身と同じ姿をしたもう一人の自分。
そんな彼が、自身の真横に立ってこう口にする。
「だな……だからこそ、向こうに行ったときに楽しめるよう、土産話を用意しないとだ……」
「……ふ、だな……」
コンスタンスは、その答えに笑って見せるのだった。




