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72.精鋭


 コートルが臨戦態勢に入ったことを確認し、三人の兵士が抜剣を行う。

 時代が変わり、騎士で無くなったとしても、やることは変わらない。


 二人が前方へと小さく展開し、もう一人が後ろから前へと出てくるのを待ち――揃った瞬間、前へと駆けていく。


 一番体躯の大きい兵士が、後続の兵士を隠すように一撃を振るう。

 そして間髪入れずに、後続の兵士たちが、左右へと流れるように攻撃を浴びせに行く。


「素晴らしい……最も、私が相手でなければだがね」


 ヘケロンは楽しそうに言いながら、一人目の横薙ぎを、影から出現させた腕で上へと逸らす。

 直後に飛んでくる二人の攻撃を、到底人とは思えぬステップで、後ろへと回転しながら躱して見せる。


 これは――


「――まだまだ序の口だとも……さあ、諸君。かかって来なさい」

「全く、厄介なのに目を付けられたものだ」


 ヘケロンの挑発に対し、一人の兵士がそうこぼす。


「同意だな」


 それに対し、もう一人の兵士がコートルの様子を確認しながら呟いた。

 すると彼は、ヘケロンではなく周囲への警戒を強めているのだ。


 そのはずだ。彼の視線の先……否、この辺り周辺が先ほどとは違う、何か暗闇のようなものに覆われているのだ。

 そして、またヘケロンの方へと視線を戻す。


 逆三角形の仮面を、手首を曲げて上から押さえつけるようにしてこちらを見つめる彼からは、そこはかとない恐怖を感じる。


「ふっ……何をビビっているのやら」

「ははっ、そうだな」

「……だな」


 その緊張を読み取ってか、一人の兵士が軽い笑いをこぼしたのだ。

 そこから、ほどけた緊張が周囲の仲間に伝播する。


「行くぞ……!!」

「「応!!」」


 覇気のこもった掛け声。震える空気、ひりつく視線。

 その全てにヘケロンは心を躍らせる。


 ――ああ。やはり、積み重ねたものと言うのは――


「――素晴らしい!!」


 ヘケロンは腕を大きく広げ、指を鳴らす。


 掛け声、応答、高らかに響く指の音。

 恐怖が緩み、緊張が走り、また自然体へと戻り、それに震えるように喜びを表した。


 これを戦いと呼んでもいいものか。その答えは――

 ――否だ。


 軽やかなステップに合わせた連撃。

 一人が撃てば、それをカバーするかのようにもう一人が追撃に入り、更にもう一人がそれを支え、最初の一人がさらなる追撃を仕掛けに行く。


 本来ならそんな動きもできただろう。


 周囲に群がう闇から、ヘケロンのローブの中から、この場に居る全員の影から無数の腕が伸びてくる。

 彼らを分断するかのように伸びてくるそれらを、躱し、斬り落とし、こそぎ取る。

 しかし、際限がない。


 躱せど躱せど無限に湧いて来る。


 そんな様だからこそ、一つのミスで動きを封じられてしまうのだ。


「くっ!」

「ほう……まだ抗うか……!」


 腕を掴まれ、前から強い衝撃が襲う。


 響く低音。


 鈍い衝撃音。


 決して致命的でもないそれらも、並みの人間であればすぐにダウンしてしまうようなもの。

 しかし、それらを彼らは意地で耐えるのだ。


 あがき、もがく。


 それは、己の信じた信念の為、仲間の為、守るべき主君の為、様々な想いを意志を全身へと乗せるのだ。


 絡みつく腕を引きちぎり、放してしまいそうな剣を強く握りしめ、攻撃へと転じられるチャンスを探す。


「陛下、暫し――揺れます」


 そして兵士たちが無数の腕に苦しめられていると同時、その攻撃はカレディアとコートルにも向いていた。


 コートルは逆手で剣を抜き取ると、そのままカレディアを抱き寄せ、ヘケロンが繰り出した腕を受け流すことに専念する。


 目の前から来た攻撃に対し、身をひねり、躱しながら斬りつける。

 その先の攻撃に対しては、腕のすねと刃でひっかけ、下へと逸らす。

 後ろから来るのであれば、そのまま逆手を利用し、後方へと突き刺すようにして防ぐ。


「すまない、コートル……」

「今は私ではなく、ご自身のことを心配してください……」


 腕の攻撃を躱す。

 そして気づく。


 ――ヘケロンが消えている。


 コートルは腕を躱し、剣をすぐさま納め、持ち方を変える――と同時、腕の隙間から現れる白い影。


 ――ヘケロンだ。


 それに対し、コートルはカレディアを強く抱きしめながら、身をひねり、そのひねりを利用しながら剣を抜き取る。

 そして、自身がいた場所に向かって抜き取った剣を、刃を――弧を描くかのように振り下ろす。


 そこから感じる確かな手ごたえ。

 しかし、それは人の物ではない。


「ちッ……やはりか……」

「すまない。私は人ではないのだよ」


 ヘケロンは余裕そうな声で答える。

 破かれた白のローブから見え隠れする機械と、黒い無数の影。


 その中には、人の肉体などは存在しなかった。


「チェックメイトだ」

「お前がな……!!」

「――!」


 ヘケロンがコートル目掛けて自身の手をかざした直後のことだった。

 腕の拘束を抜け出した兵士の一人が、ヘケロン目掛けて斬りかかったのだ――

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