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69.心の支え


 フランクウッドはヒュースや赤ずきん、マーキュリーたちのことを考えながら、彼が建てたリリステナの一室で、指輪を触る。

 自身が愛した女性が叶えられなかった一つの夢の中、部屋に設けた窓から流れ落ちてくる光に一心に、フランクウッドは表情に影を落とす。


「なあ、リリステナ……俺は俺で、頑張ったと思わないか?」


 部屋の一室で、誰の返事があるわけもなく、フランクウッドはただ空虚に話しかける。


「君と出会って、俺も考えが色々変わったさ……今では無意識に相手をトレースすることもなくなった」


 流れることのない乾いた涙が、フランクウッドの頬を伝った。

 この曖昧な不安と、直感にも似た恐怖。


 それを彼は一人でぶつける。


「こんなに頑張ったんだ。君が叶えられなかった夢を叶えたくて、もういない君の名前をここに付けた」


 フランクウッドの声がかすれる。

 喉が、震える。

 見えない涙がそこにある。


 ――小さな本音が透き通る。


「頑張ったんだ。もう、この心がちぎれそうなほどに……君がいなくなってからもうすぐ十年が経つんだ」


 彼の声に怒りが灯る。

 力が宿る。


「でも……! まだ頑張らないといけねえんだな……!!」


 フランクウッドは自身の髪の毛をぐしゃりと握りつぶした。

 もう、かさぶただけでは隠せない、心の奥に巣食う、膿みが蔓延んだ激情をフランクウッドは言葉のナイフで切り刻む。


 ひとしきり、命一杯、拳を握る。

 奥歯が折れてしまうんじゃないかと思えるほどの力で口をつぐむ。


「大丈夫。きっと、フランクウッドならできるよ。だから、待ってるね」

「…………! ああ……」


 その時聞こえたのは、かつて彼が愛した女性の声だった。

 誰もいない部屋の中で、男は一人、今にも消えそうな残り火に、溢れんばかりの燃料を注ぎむのだった。



 ◇



 シェリーとユニ・フローラが楽しそうに談笑を行う中、シュバリエは考えを巡らせていた。


「……」


 それは、とても誰かに打ち明けられるようなモノではない。


「……もっと、もっとずっと。貴方の傍に居たいのですがね……」


 手から感じる温もりと、彼女ともっと共に居たいと思う気持ちその全てが思考を歪ませる。

 自身の出自、それはユニ・フローラによって産み落とされた……つまり、魔女の力によって生きることを許された存在。


 シュバリエはシェリーたちの方を向く。


「願わくば、貴方が見ている世界を、私も見て見たい……」


 シュバリエは思うのだ。

 もし、ディガードの計画が上手く進んだら、イフェイオンは、彼女の力はどうなるのだろうかと。


 もちろん彼女のことも、守るべき主人であることには変わりない。

 しかし、それ以上に……シュバリエの中ではシェリーという存在が大切になっているのだ。


「貴方が勇気を振り絞るからこそ、私も前を向ける……」


 まだ物事への感じ方が多感な少女が、自身よりも動けないのに戦場で何かを成そうとするのだ。

 例え借り物の力だとして、それが安全圏からの行いだからとして、その場で逃げ出すこともなく動ける事実が――


「――貴方の行く末を……見届けたくなってしまう……!!」


 シュバリエは拳を力強く握りしめるのだった。



 ◇



 ヒュースは一人、水浴びを行う。


 これは自身の思考に対しての一つの整理の付け方でもある。


「この高ぶる気持ち、悔しみ、後悔……それら全てをどうしてくれようか……!!」


 冷や水が髪を濡らして、頬へと落ちる。

 服が濡れて、風の一つがそこから熱を奪って行く。


「今日から君の面倒を見ることになった。フランクウッドだ……よろしく頼む」


 ふと聞こえたそのなじみ深い声に、ヒュースは振り返る。


「は? あんたが俺の面倒を? 何故?」

「君のご両親とは縁があったからな……」


 そこに居たのはかつての、両親を失ったばかりの自身の姿。

 そして、そんな両親を失う前から好き勝手に生きていた過去の自分に、方向性を定めてくれた師匠の姿。


 当時は魔女が登場してから三年程だっただろうか。

 そんな、世間ではまだ混乱の色が消えないでいた頃だろうか。


「俺は他人に興味がない。あんたの信念は何だ?」

「魔女を救うことだ」

「あんた頭湧いてんのか?」

「……」


 その時の師匠の目は今でも強く印象に焼き付いている。

 それは本気の目だった。


「……分かった。とりあえずはついて行ってやるよ。だから、あんたが何を成そうとしているのかを、俺に見せてくれ」

「……ああ、それでいい」


 ヒュースはその光景を思い出し、考える。

 思えば、師匠にも余裕のない時期があったのだと……。


 師匠の成そうとしていることは確かな物だった……それに引かれたのは間違いない。

 じゃあ何故――


「師匠があんなにも人に優しくなれたのかを、俺は覚えていないんだ……?」

「そんなことはどうでもいいだろう……お前はあの人の目的を達成するための牙なのだから……」


 どこから聞こえたかもわからぬその声に、ヒュースの瞳は鋭く光る。


「……ああ、そうだったな…………今は、そんなことを考えてる場合じゃなかったな……」

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