68.つまらないはずの日々(1)
リリステナで一人、とある人物に宛てた手紙をしたためるフランクウッド。
彼は一通り書き留めた後、ため息を漏らした。
そして、薬指に付けた指輪に触れる。
「やっぱり、俺には難しいな……」
普段誰にも見せることのない、素の口調。
そして誰にも、自分から話すことのない彼女との記憶に思いをふける。
◇
「…………滲みるな」
フランクウッドは、潮風に吹かれながら、酒を飲み干し空になったジョッキを片手に、港を見つめる。
戦時中のフランクウッドの役目は、反乱分子と指定された組織、グループの排除だった。
それはひとえに、彼のずば抜けた洞察力を買われての事。
フランクウッドは、人と関われば関わる程、その人間をトレースすることが出来るようになる。
当然、それを気持ち悪いと思う人間も数多く存在し、フランクウッド自身もその特性を疎ましく思っていた。
人と関われば関わるほど、その人間の思考パターンや次にとる行動、今行きたい場所それらが頭に流れ込んでくるのだ。
それは、まるで自分が自分で無くなるような、自身が相手の鏡にでもなったかのような、そんな不気味な感覚だった。
「信じていたのに……か……」
今日殺した人間の、最後の言葉が脳裏を過る。
「またお酒飲んでるんですね」
「……また君か。もう報告は済んだはずだが?」
フランクウッドは振り返ることなく、自身を訪ねてきた女性に素っ気なく返す。
「どうせ飲んでるんだろうなと、思いまして……一杯付き合っても?」
「リリステナ。君はお酒が弱かったと記憶しているが?」
「え? もう貰ってきましたけど」
フランクウッドは呆れたように、海を見つめて酒を飲み干して見せる。
「これで、一緒には飲めないな」
「別に構いませんよ」
リリステナはフランクウッドの横へと並び立ち、彼を小突くが、フランクウッドは何も反応しない。
それに対して、リリステナは少しつまらなそうに、酒をゆっくりと口に含んでみる。
「……いつも浮かない顔ですね。か?」
「いつも話が早いですね。何故です?」
「こちらも一つ聞こうか。何故私にそこまで構う?」
「それ、遠巻きに関わるなって言ってます?」
フランクウッドは目を閉じてただ一言「ああ」と頷いた。
それを見て、リリステナはフランクウッドを更に小突く。
「相変わらず酷いですね!」
「まあね」
「……ま、バディだからじゃないですか? もちろん、貴方が人と関わりたくないのは知ってます。でも……」
その続きを彼女は語らない。
しかし、フランクウッドにはそれが、その先が分かってしまう。
「同情ならいらないさ。適当に生きて、適当に死ぬ……きっといつか、この業を清算する日が来るだろうから、それを待つだけだ」
「それって――」
「ああ、つまらないさ……」
フランクウッドはため息を漏らし、後頭部を軽くかく。
「なら、私が貴方の人生に彩を与えます!」
それに対して、リリステナは海を見つめたまま声を張り上げ、酒を飲み干した。
「…………そうか。今日は送ろう」
◇
「フランクウッドさんって、意外と面倒見いいですよね?」
「……俺はそうは思わんな」
あれから、リリステナはことあるごとにフランクウッドの元を訪れるようになった。
「うん、すごくいい」
「……そうか」
彼女がフランクウッド自身についてを伝えてくれる度、フランクウッドの中に、自分について考える時間が生まれる。
その度に、自分については何も知らないような感覚が彼を襲う。
「あれれ~? もしかして悩んでます?」
自身について考えている最中に、憎たらしい表情で見つめられ、フランクウッドは咄嗟に黙り込む。
「……」
「――いたッ!」
そして、その無防備な額を何気なしに指ではじいてみる。
不思議だ。
今までも、フランクウッド自身に対する言及はされてきた。
「理知的だ」
「浮かない顔だ」
「何を考えているのか分からない」
「頼りにしている」
でも、彼女の言葉はそれらの言葉とはどこか違う気がしてならないのだ。
それについて考える度、自身について考える度、それらを考えている際に彼女を見つめる度に思うのだ。
何も分からないと……。
でも、それがどこか心地いい。
「ちょっと、聞いてます?」
「……君は素直だな」
「はい?」
「ああ、すまん? そうだな、あそこの料理は絶品だな」
「絶対聞いてなかったでしょ!?」
それはフランクウッドにとっては初めての感覚だった。
あれから更に彼女と関われば関わる程、彼女のことが分かるようで、分からないとは……少し違うが、不思議な気持ちを抱く。
どんどんと変わりゆく感情に、フランクウッドは今日も疑問を抱きながら、彼女とのささやかな日々を過ごすのだった。




