55.光が消える
ルー・ガルーが駆け付けた時には、もう既に全てが終わってしまった後だった。
そこかしこで見受けられる血だまり、臭気、惨い残骸。
魔女は死に、残った人たちは別の場所へと避難を終え、攫われた人の確認を行っている所だった。
「…………」
ルー・ガルーは屋根の上から辺りを見回す。
怒号が飛んでいるのが聞こえる。狩人に対してだろう。
泣いている人物が見える。驚きを隠せないといった様子の人が、気力もなく歩いているのが見える。
誰かが差し伸べた手を振り払い、駆けだす人が見える。
「……」
更に周囲を見回してみる。
魔女の亡骸、上半身を失った狩人の死体、バラバラになってしまった一般人。
それらを見ていると、自然と剣を握る手が強くなる。
爪が食い込んで、血が出てしまうんじゃないかと思えてしまうほどに強く、強く握りしめてしまう。
「……あれは……」
ルー・ガルーは息を呑む。視線の先、そこに転がっていた魔女の骸。
それにどこか、既視感があったのだ。
手紙を届けるために訪れた古い廃墟。そこで空間を歪ませていた、とある魔女の姿が頭を過る。
次に思い浮かべたのは、依頼人たちの悲しむ顔だった。
「ここにいたのか、エレナ・クロード……」
ルー・ガルーは目を閉じる。
また、自身は救えなかった。
挽回する……笑わせる。また、何もできていないじゃないか。
「ルー・ガルー、貴様には何ができる……!? 何を為そうとした……!? 師匠の目標を叶えるんだろう……? クソ……」
ルー・ガルーは帰路に就く中、静かに怒りを口にした。
◇
「赤ずきん様、お嬢様の姉君が見つかりました」
資料を集めていた赤ずきんの元に、ジャックがやってくる。
そちらをちらりと見遣ると、赤ずきんはメモ帳をポケットへとしまった。
「わかった、さっさと出ようか」
今回得た情報はどれも赤ずきんの手には余るものだった。
憶測にはなるが、魔女は人に成り代わる術など持ちえない。
ここの所有者を仮に、黒幕と呼称するとして、そいつは人を魔女へと変える研究を行っていた。
その鍵になるのが、ロベリアという魔女と、イフェイオンと言う魔女。
魔女の素質を持つものであれば、古い魔女の魂とでも言うのだろうか。それを植え付けることで魔女へと変化させられる。
おそらくだが、シェリーもここで実験を行われていたと思われる事。
黒幕の目的は、全ての人間に素質を持たせるために、その体を作り変える事。
シュバリエが感じたという魔女の気配は、ここから更に地下に当たる位置に、魔女の魂を留めているためであろうこと。
これらをフランクウッドに伝えるのは、確定事項だろう。
問題はマーキュリーだ。赤ずきんがここへと訪れたのは、純粋にシェリーを助けたかったという気持ちが大きい。
しかし同時に、ここで得られそうな情報をフランクウッドに伝える事、そして魔女について調べている、マーキュリーの助けになるかもしれなかった事、それらを望んでいる気持ちも、多分にあった。
フランクウッドは、この情報の扱いに困りはするだろうが、彼なりに上手く整理するだろう。
しかし、絶対にそれらをマーキュリーに教えることはないだろうと、考えてもしまうのだ。
かといって、マーキュリーにそのまま全てを伝えたとして、彼女が何かをしでかすかもしれない。
それが、たまらなく怖いのだ。
「赤ずきん……?」
ジャックの後ろからフクロウが顔を覗かせた。
シェリーにもこのことを伝えた方がいいのだろう。しかし、まだ早い。そう、思う。
「うーん、先生の事、あんま悪く言えないな……」
「何か、おっしゃいましたか?」
「ううん、何も……行こう」
赤ずきんは、フクロウに対してグッドサインを送ると、そのまま皆の元へと合流した。
「初めまして、貴方が……ユニ・フローラさんですか?」
赤ずきんは少し考えてから、イフェイオンのことをシェリーが知っている名前、ユニ・フローラとして呼ぶことにした。
「ええ」
「私は赤ずきん。気楽にどうぞ~……と、まずはここから早く出ましょうか?」
いつもの調子で赤ずきんは明るく話す。
その様子にユニ・フローラは少し困った様子を見せる。
廊下を進み、ここへとやって来た、階段付近へと差し掛かるタイミング。
「一応、私が先に確認してくるよ……」
赤ずきんがシェリーに対して、そう言い終わると同時、突如床一面が淡い光に包まれた。
「――!」
シュバリエは、慌てて幹を床へと伸ばす。
しかし、幹が床へと触れるよりも早くに光は収束した。
体は特に異変がない。
「今のは一体……」
「……早く出ようか」
底知れない恐怖に包まれる中、赤ずきんの一言で、一同は階段を上っていくことにした。




