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53.がらんどう


 赤ずきんは、当たりをつけた書類の一つ一つに急いで目を通していく。


「…………」


 その内容に唇を噛み、顔をこれでもかと歪める赤ずきん。

 魔女の血を素材にした魔道具と、魔術式の研究資料の山から犠牲になった魔女たちのことを考えてしまう。


 いくら魔女が悪だという考えがあるのだとしても、やっていい事と悪いことがあるはずだ。

 これは、それらを優に超えている。


「……根源?」


 とある一文が、目に留まる。


 ――根源に干渉する魔女の力を奪い、その後に術式を起動させる――


 そのまま目を滑らせ、赤ずきんは内容を確認する。


 ――ロベリアの覚醒が一番の困難になると思われる――

 ――定着させるのは簡単だが、体が持たないことが多く、体の保持に成功したとしても精神が焼き切れる――

 ――これらを乗り越えた被験体も数体存在したが、完全な覚醒にこぎつける者はいなかった――


 ――魔女化の為にはストレスや命の危機に瀕する必要がある。しかし、同時に内に潜むロベリアの逆鱗にも触れやすく、何度殺されそうになったことか……だが、それももうじき終わる――


「……ほんとにこいつは何がしたいわけ? 何か色々とぐちゃぐちゃじゃん……気分悪いだけなんだけど」


 アンリーは珍しく舌打ちをつき、そのまま赤ずきんとして、他の書類の確認へと戻るのだった。



 ◇



 赤ずきんがシェリーたちへとついて行き、隠し扉へとたどり着いた頃、ヒュースはエレナの捜索に出ていた。


「赤ずきんは一体何を……いや、それは俺の方か……」


 自身の口から出た言葉に対して、ヒュースは深く考える。


「俺は、何をやっていた……赤ずきんを勝手に行かせて、エレナさんのことも見ていられなかった……」


 双剣を手に、ヒュースは避難所の方を見ながら立ち止まる。


「減点だ……ずっと、ずっと……俺は、何もできていないじゃないか」


 剣を握る手を強めるヒュースは、そのまま魔術を発動させる。


「クソ……挽回しないと……」


 青い光を置き去りに、ヒュースは魔術で加速し、走り出していく――



 ◇



「な……なにが、起きているんだよ!?」


 エレナに掴まれ、宙へと浮かび上がったカトールの頭には困惑の色が咲いていた。


「ダイジョウブ……スグ、オロスカラ」

「は?」


 わずかな遊泳飛行。その間に、カトールとエレナの思考はぐちゃぐちゃになっていた。


 カトールは魔女に助けられたことに対して、エレナは、自身がこんな不気味な姿になっていることを知られたくないという思いから。

 ふわりと降りていく瞬間。


 星は煌めいていた。空は水面のように揺らめいて、赤い模様に染まっていく。

 二人はまるで、水中に沈むかのように、エレナが出現させた歪みへと舞い降りていく。


 ふわりと、ポツリと、そしてプツリと、カトールの意識は歪みへと触れた瞬間に途切れるのだった。


「エレナ……次へ行きましょう」

「ええ」


 歪みから出た先、そこはアベリアックが暮らしていた街の一角だった。


 遠くの空は、これほど離れていても幻想的に見えてしまう。

 渦中の魔女の魔法にかかってしまった影響なのか、自身が魔女となった結果なのか、それとも魔法の効果がここまで至っているのか、その真相は定かではない。


 しかし、一つ確かなことがある。


 ここには楽器たちがいない。魔女の影響が薄いのだろう、住人は皆、穏やかに夜の感傷の中で眠りにふけっているのだ。


「カトール……アイシテクレテ、アリガトウ」


 エレナはまた空間を歪ませ、遠くの街へと移動する。


 牙を剥く、魔女たちの中から、今度は両親を助けだす。


「エレナか?!」

「エレナ? エレナ……なのよね……?」

「……」


 母と父の声がした。しかし、エレナがそれに耳を傾けることはなかった。

 愛する人たちを助けられるのだから、もうこれで終わりにしたっていいはずだ。


 もう、自身の心が分からない。笑えてしまえるほどにぐちゃぐちゃだ。


 また、一歩前へと進む。


 両親を歪みへと預け、更に進みだす。


「ねえ、他の皆も助けたいと願うのは夢を見すぎているのかな?」


 エレナは自身に問いかける。


「そんなことないわ」

「多分、ここで他の皆を助けないで終わったら、私はこの先ずっと、成長できない気がするの」

「……最後まで付き合うわ。エレナ、貴方はもう誰のモノでもないの、貴方が信じたものへと突き進みましょう?」


 エレナは、その捻じれて歪んだ不気味な顔で、生まれてから一番綺麗な、ほほ笑みを浮かべた。


「ありがとう。さ、皆を助けに行きましょうか」


 夢見がちな少女は、最期に道化と共に夢を見る。それは儚く、そして力強い、そんな舞踏のようだった。

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