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51.再び


 魔女アレノスは空を見つめていた。

 観客から伝わってくる恐怖。まただ。


 ――どうして、怖がるのだろうか。


 アレノスが奏て、皆が想像し、それをアレノスが更にブラッシュアップする。


 つまるところ、音楽を問わず、皆が作品や景色で感じた気持ちを共有し、それを抽出させる魔法。

 それが、アレノスが得意とする魔法の正体だ。


 皆が美しいと思えば思うほど、より幻想的な世界となる。

 皆が恐ろしいと思えば思うほど、より終末的な世界となる。


 各々の気持ちが乱れれば、それ相応の混沌とした世界となる。


 しかし、永い眠りから覚め、意識が朦朧とした状態の彼女には、そんなことすら分からないでいた。


「どうして……どうしてですか……私たちは、ただ……」


 アレノアは思い出す。かつての栄えた国での惨劇を――


「――アレノス、今日は最高のショーにしましょうね」


 神話の時代、イフェイオンを始め、魔女という存在そのものが認められつつあった時期に、その国では建国五十周年を迎えようとしていた。


「ええ。お互い、頑張りましょう」


 そのため、街では数々の催しが用意されていた。アレノスとその友人たちも王家の指示により、それに参加をしていた。

 彼女が得意とする魔法は昼間であっても、素晴らしい夜景を映し、例え猛暑だとしてもオーロラと冷えた風を再現できる。


 唯一無二ともいえるその才を彼女は、ショーと言う最も適した場所で活用していたのだ。


 その日も、皆を楽しませるために最高のショーを奏でる。そのはずだった。


 鳴り響く轟音。燃えて崩れゆく、城の一角にあった白い塔。

 そこは、一人の魔女が幽閉されている場所だった。


 轟々と炎は燃え、夕暮れ時の空の赤をより一層深い物へと変えていく。


 ロベリアだ。それも、魔女化したわけでもない、純粋な己が悪意の元で彼女はこの国を灰燼に変えようとした。

 否、変えたのだ。


 ロベリアは笑う。


「ハハ……アハハハハハ!! 全て、全て!! 燃やし尽くしてあげるから……!!」


 ――魔女アレノスは顔を抑えて、蹲る。


「どうして……どうしてですか……私たちはただ、あの時描けなかった続きを……! もう一度、叶えたいだけなのです」


 彼女の目には、今もあの華やかな街があり、傍にはあの頃の友がいる。

 でも実際は、混乱に満ちた街が広がっているだけ。そばに居る光も、かつての友かも怪しい存在。


 それすらも、彼女は認識できない。


 ずっと、運命の手のひらで転がり続けた彼女は、今もなお、何も分からないでいるのだ。



 ◇



「クオーツ! 下がれ、右から崩して魔女へと近づくぞ」


 アレノスに近づくにつれ、どんどん増えていく楽器たち。

 それらを搔い潜るようにしながら、クオーツとホーンロッツは前進していき、とうとう楽器の群れから抜けて出る。


「おうおうおうおう! とうとう対面じゃねえか! 魔女さんよ!」


 抜けた先で蹲っていたアレノスも、クオーツたちに気づき、視線を向ける。


「敵意……なぜ……」


 アレノスがポツリと口にした言葉に、ホーンロッツは聞こえないながらに反応する。


「なんか妙や……」

「どんどんと、あの頃の光景が……ダメです、私は……」


 アレノスは錯乱したように頭を振る。


「ロッツ、一度下がるぞ」


 先ほどの浮足立った表情とは裏腹に、嫌な予感に従うクオーツと、それに同意するホーンロッツ。


 彼らが下がり、緊張が走る――


「――! 何や、これ」


 彼らの周りには、何処からともなく、灼熱の業火が燃えていた。



 ◇



 シェリーたちは階段を下りていく。

 響く反響と、地下独特のにおいと空気、少し息が詰まるような湿度それらがどこか、不気味さを醸し出している。


「姉君はおそらく、この階段を下りて少し直進した場所にいるかと……」


 ジャックがそう言うと、赤ずきんは場所を再度確認した。


「ちょっとさ、私は他に見ておきたいものがあるから、二人で行ってもらってもいい? 後でちゃんと合流するからさ」


 手を合わせ、謝りながら言う赤ずきん。

 それに対してシェリーたちが止める理由もない。


「分かった、でも、気を付けてね」

「うん、ありがと。フーちゃん」


 階段を降り、その場で二手に分かれる三人。


 シェリーたちはそのまま廊下を進み、やがて一つの扉に当たる。


「お嬢様、ひとまず、ここは私が開けますので、少し下がっていただけますか?」

「ありがとう、ジャック」


 ノブを回し、ゆっくりと開かれた扉の先。そこは意外にも生活には困らない、豪華な部屋だった。


「お姉ちゃん……?」


 そこのソファーに座る一人の女性。

 それはシェリーのよく知る女性でもあった。


 困惑が頭に過る中での呼びかけに、彼女は反応する。


「……シェリーちゃん?」

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