48.構造把握
「えっと……赤ずきん……? どうして、ここに?」
「なんでもどうしてもないよ、シェリーちゃんが心配だったからね~。黙って来ちゃった」
赤ずきんは笑う。それを見てシェリーは少しの困惑と嬉しさを隠せないでいた。
それでも、シェリーは唇を噛む。
「でも……」
「でもこれは……とかいいからさ~?」
それを見透かしたかのように、赤ずきんは走りながら言う。
それに対して、シェリーの足が止まる。
「まずは、どうやってシェリーちゃんのお姉さんを見つけるのか、聞かせてよ?」
アンリーもシェリーに合わせて足を止め、彼女に振り向き、そう聞いた。
「ありがとう。まずは――」
「……」
シュバリエは思う。今までのシェリーであれば、ここで引くことがなかっただろうと。
やはり、彼女の成長を見ていると少し不安になると、どうしても置いて行かれそうで不安になってしまうと……。
でも、同時に思う。
置いて行かれたとしても、それでいいんじゃないかと。シュバリエは、シェリーを守ることよりも、共に歩くことを選んだ。
例え、置いて行かれることがあるのなら、何度だって彼女に追いついて見せる。その覚悟が、彼にはあった。
そのために自身にできることを振り返る。
「――えっと、外で様子見、侵入、目星をつけて直行、見つかったら変装を解いて攪乱……なるほどね。了解」
「うん、赤ずきんは私たちのサポートをお願い。具体的には、攪乱時に狩人を一人ずつ無力化してほしい」
「オッケー、さらなる混乱を生むためだね」
「話は終わったようですね」
そう言うとシュバリエは軽く抱きかかえた。
「シュ、シュバリエ? 私は、一人でも……」
シェリーは少し動揺した様子でシュバリエの方を見る。
「はっきりと言いますが、お嬢様には体力がありません。今ここで、無意味に消耗してしまっては、本当に必要な時に、動けなくなってしまいますよ?」
「まぁさ、ここはシュバリエに連れてってもらおうよ、フーちゃん」
少しの間、考えるシェリー。少しの沈黙。
「うん……お願い、シュバリエ」
「ええ。それと、お嬢様が立てた作戦を実行するのであれば、私も呼び名を変えなくてはなりません。是非――ジャック……そう、お呼びください」
◇
協会を目指すべく、再度走り始めた三人は、存外すぐに目的地へとたどり着くことに成功した。
これも全て、赤ずきんが加勢に来たこと、シェリーがシュバリエに抱えられているといった状況、この二つが大きいだろう。
赤ずきんが先行し、敵の位置を把握し、シュバリエが幹を使って橋や階段を作るなどして、移動をスムーズに行う。
やはり偵察がいるのといないのでは、行動が大きく変わってくる。
シェリーは考える。
自分には何もできない。体力もなければ、戦闘能力も、特別な技術力も、とにかく今、ここで役立つことが何もないのだ。
だからこそ、思考を回す。自身の我儘に付き合ってくれている人がいる。それに甘えているだけでは駄目なのだ。
せめて、頭を使ってことを上手く運びたい。そう、シェリーは考える。
「……ジャック。まずはさっき話したみたいに、この辺りで待機してくれる? それとお姉ちゃんがどの辺りにいるのか探せる?」
「ええ」
外観としては、そこそこの貴族が住んでいる豪邸と同程度、あるいはそれ以上の広さをした、五階建ての要塞と言った所だろうか。
前面は贅沢にガラス張り、そのまま左側へと向かっていくと、鍛冶場らしき建物と倉庫、本館から外へと出るための非常階段が設けられている。
右側には宿舎と中庭へと続く道、裏側には、複数の従業員扉らしき物が設置されている。一階は各エリアへとすぐに出入りできるように、吹き抜けといったイメージが強い。
「鍛冶場は避けた方が良さそう……宿舎は出払ってると思うけど、要警戒……食堂側は人はいないと思うけど、そもそも入れない」
「フクロウ、見つけましたよ」
「どこ?」
「やはりというべきか、地下から姉君の気配を感じます」
少なくとも、これでヘケロンの言っていたことは合っていたことになる。しかし、問題はどうやってその地下へと向かうかだ。
元より、ずさんな計画だ。それもシュバリエだよりときた。シェリーにも思うところは有る。
それでも、この心が感情が、義姉を助けたいと叫ぶのだ。
「ジャック……頼りにさせてね」
「ええ、お任せください」
◇
「えっとねー、とにかく広いね……」
戻って来た赤ずきんは、協会の内部構造を記した紙を広げて説明を行う。
「ま、色々あるんだけど、現時点で狩人が出入りしているのは二階だけだね。それも事務仕事メインの狩人っぽいね」
「……ねえ、赤ずきん。ここって?」
そう言うと、シェリーは二階の地図を指さした。
「多分、会長室。要はディガードの仕事部屋ってことだね」
「じゃあ、ここの真下は隠し通路だね」
二階の地図と一階の地図を重ね、一つの大きな柱に丸を付けるシェリー。
「だろうね、中は空洞ぽかったし、なんかあると思うよ?」
「……この位置と役割を考えると、あとは鍛冶場と宿舎、倉庫……この辺りかな……?」
シェリーは地図へと、どんどん印を付けて考える。
「分かった。宿舎側に回ろう」
どうやら答えが出たようだ。その様子に、赤ずきんは小さく口笛を吹くふりをした。




