39.失ったもの(二分の一)
コンスタンスからの知らせを聞き受けたホーンロッツは、一人頭を振った。
自分は何度も忠告をしてきた。危うい橋は渡るな、と……ホームバイツもそれは理解しているはずだった。
だから、ホームバイツとフォドゥーカたちは、危うくなったら引くはずだ。そう思いながら、ホーンロッツは次の知らせが入ってくるのを待っていた。
本当なら真っ先に現場に向かい、状況を自身の目で確かめたい。
しかし、彼は上級狩人だ。アズレアはともかく、彼らは協会にとっての切り札。
そのため、ディガードからの命令があって初めて動くことが出来る。故に今はただ、待つことしかできないのだ。
「頼む……残った奴らだけでも、無事であってくれ……」
彼は待つ。
だが、その甲斐はあったのだろうか。
次の知らせが入ってきたのは、翌朝のこと。医者は討たれ、その代わりとして、ホームバイツたちが死んだとのことだった――。
◇
列車から降りたシェリーたちは、狩人が駅の出入りを取り締まっているのを見かけ、ヘケロンの提案により裏手からリリステナへと戻ることとなった。
夕暮れ時の駅のホームで、とある老父とすれ違う形で。
「一応確認なのですが、なんのためにここに来られたのですか?」
狩人の一人がその老父の対応をしていた。
肌はよぼよぼで、目元はたるみ、背筋こそ真っすぐだが、片手に杖がないと歩けない様子。ぱっと見いつ死んでもおかしくない年齢の、身なりの整った老父。
狩人も彼が何かをできるとは、あまり思っていない。それでも少しでも可能性があるというのなら、職務は全うしなければならない。人々を守るために。
「余生を……観光のために使おうと思いまして。見ての通り、生い先が長くありませんので」
手と腕を震わせながら、老父は腕を横へと広げて自身のことがよく見えるように狩人に見せる。
「そうですか。一応、持ち物の検査と術式の有無を検査しますね。もし、何かあるようでしたら今、申告してください」
「どうぞ」
そのまま、老父は腕を真上に上げた。
「はい。特に怪しいところはありませんでした。もう遅いですので、お気を付けください。もし、今日の宿をお探しなら、あちらの狩人にお聞きください」
検査のために列ができ、時間がかかってしまう。
そのせいで宿をありつけない人を減らすために狩人は、宿の空き状況の把握と管理を行い、必要に応じて、協力関係にある宿屋各所に連絡を取っているのだ。
「お気遣いありがとう」
老父は狩人の一人から宿について聞き、そのままホームを後にした。
◇
駅前の小さな広場。そこのベンチで、購入した売れ残りの新聞の一つを無造作に読み散らし、くしゃくしゃに握りしめる青年、カトール・ランバートがいた。
――狩人、またしても魔女を取り逃がしたか――
新聞に載せられている内容は、どれも気分が暗くなるような物ばかりだった。
相次ぐ魔女の露見。その全てを狩ることのできない狩人の現状。徐々に強まる不信感。そして、魔女の疑いがある者たちの名前。
青年が名前の羅列から見つけた文字列――エレナ・クロード。
それは、彼が愛した人の名前。今現在、探しに探し求めていた人の名前。
もしかしたらとは、思っていた。しかし、否定したかった。きっと、まだ生きている。魔女じゃないと。
でも、もう心が折れそうだ。
「クソッ!」
ぐしゃぐしゃにしたせいで、ところどころ破けてしまった新聞をカトールは乱雑に地面に叩きつけた。
「こら青年。物は大切にしないといけないよ……」
その言葉にカトールはハッとし、顔を上げる。
「あ、すいません……少し……考え事を」
目の前に立っていたのは、杖を片手にした、よぼよぼの老父だった。
老父はそのまま、カトールが叩きつけた新聞を拾おうとして、諦める。どうやら老体にはこたえるらしい。
それを見てカトールは、少し黙り込みながら新聞を拾う。
「よかったら、少し見せてくれないだろうか?」
「……どうぞ」
「ありがとう」
気まずいそう思いつつも、見ず知らずの人にボロボロになった新聞を押し付けて去るのも忍びない。
そう思いながら、その場に残ることを選んだカトールに、老父は語り掛けてくる。
「君も、魔女が知り合いから出たのかい?」
「え?」
老父は静かに言葉を続ける。
「君は……魔女についてどう思う――?」
――次章:古き魔女の行進――――
暫くの間、私の文体を洗練したものにしたく、書き方等を少し変えるかもしれません。
目標とて、抽象的、詩的な表現はそのままに、誰でも理解しやすいように具体化する。といった所でしょうか?
できるかは分かりませんが、曖昧さの回避と、ライトノベルとしての読みやすさ。これらは私の明確な課題ですので頑張ります。
ご不便をおかけするかもしれませんが、宜しくお願い致します。




