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30.激化の予兆


「んで? 何やっけ? 魔術のことやっけ?」


 ホームバイツはクッキーをかじりながら、シェリーたちと最初に出会った高台のベンチで問いかける。


「……ええ」


 ホームバイツは街並みを見た。ただ、ポツリと感情をこの街の中に落とすかのように。


「君らだって、シュバリエのこと。なんか隠しとるやろ? それやのに聞くん?」

「……それは」


 押し黙るシュバリエとシェリー。その様子を見て、ホームバイツは笑って見せた。


「あははは、嘘嘘。冗談冗談。そんな困らんといて?」


 どこか乾いた笑い。心の底から出た物ではないであろうことがよくわかる。

 ホームバイツはクッキーを一つかじった。


「……別に隠すほどのもんでもないしな~。俺、狩人やからさ。それで魔術が扱えるだけ。てか、普通は先にそれ思わん?」

「…………」

「二人とも。嘘、つくん下手くそやろ? ま、詮索するつもりもないけどさ……なんとなく、悪人じゃないことはわかるし」


 かじったクッキーはどこか苦かった。

 ホームバイツは一つ息を吐く。


「よし、この話はしまいにしよ。猫も見つかったんやし、会ったばっかの知らん人同士なわけやし、もうなんもないやろ。ほら、もうお互いに帰ろうや」

「……そうですね」


 シェリーはそう返す。確かに出会ってすぐの他人同士なのだが、彼にはどことなく人を引き付ける何かがあるような気がした。

 口調は少し怖いし、目は見えない。何を考えてるのかもあまり分からない。それでも、人のことを気にかけている、お人よしであることは確かだった。


「……ああ、せや。君らは、互いに支え合えばいいと思うよ。自分についてなんて俺も分からんし、一朝一夕で分かられたら、逆に俺の方が困ってまうわ」

「え?」

「ほなね」


 ホームバイツは去り際にそう言い残すと、どこかへと消えていってしまった。



 ◇



 シェリーたちと去ったホームバイツは、とある魔女の後ろ姿を移した写真を取り出した。


「……そっくりやな」


 罪火の魔女。実際に会ったことはなかった。それでもホームバイツには、途中から嫌な予感があった。


「はぁ……言葉を交わした相手が魔女とか……やり辛いことこの上ないな~……嫌すぎるわ」

「おい、バイツ。お前は何処をほっつき歩いていたんだ」


 後ろからかけられた声に、ホームバイツは振り返る。


「そうかっかすんなや。フォドゥーカ……ただ人助けしとっただけや」

「……そうか。エレナ・クロードを見つけた。例の医者はおおよそ黒だろう」

「バックアップ連中は今回何人や?」

「バックアップは八人だ。うちサポーターもこなせるのが三人だ」


 ホームバイツは押し黙り思案する。


「バックアップ二人は先に、分けて協会本部に戻らせよか」

「叩くのか?」

「罪火の魔女らしき人物がおった。んで、俺が狩人やってバレたわ……せやから、医者の方には逃げられる前に奇襲する」


 後ろ盾のないチームにとって、治療を施してくれる存在と言うのは大きい。

 今回の任務。医者についての調査というのは、後程狩人総出で叩くための事前調査に過ぎない。


 もし、ここで逃げられたら。隠れられたら……それは、任務の失敗を意味する。


「サポーターこなせる子は、医者の周辺で待機。残り三人は住民の避難と、戦闘データの収集をさせよか」

「敵の人数は分かっているのか? 俺にも命を散らす覚悟はある。だが、それの価値がわかっていないわけじゃない」

「……罪火の魔女、花の化け物、戦えるんかは分からんけどエレナ・クロード。少なくとも赤ずきんかルー・ガルーのどっちかもおるやろな」

「……そうか」


 実に無謀な挑戦。接敵すれば、こちらの命は怪しいだろう。

 防御に特化した二人で、一体どこまで食らいつけるのか。彼らにとって、これは賭けだ。


 それでも、やるだけの価値はある。


 上昇傾向にある魔女の露見件数に伴い、強力な魔女が現れることも増えてきている。

 市民から寄せられる不安の声と、狩人側の判断ミス。そして勢いを増す野良人たち。


 その中でも赤ずきんやルー・ガルーの勢力は強力だ。これからも協会にとって、人々にとって厄介な存在になり続けるだろう。

 だからこそ。だからこそだ。今ここで、少しでも勢いを削れれば……そう、ホームバイツは考える。


「あくまで奇襲や。制服は必要ないやろな。とっとと医者とっちめて、すぐに離脱する。いいな?」

「分かった、火の子は俺が振り払おう」

「うちの隊長は怒るやろな……それに……いや、何でもない。ほな、いこかフォドゥーカ」


 ホームバイツが差し出した手をフォドゥーカは強く握り返す。

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