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27.目的


「よし、これで大丈夫だろう。にしても君はよく無茶をする……あまり魔術に頼りすぎないようにね。それを使い続けるのはよろしくない」


 ヒュースの手当てを終えたドクター、もとい、アベリアックは安堵のため息を吐く。


「すみません、気を付けます」

「何度も聞いているよ……それとエレナさん、君には薬を出しておこう。魔女化した後は力の制御に歯止めが利かなくなってしまうことが多い。これがあれば少しはそういった事故を減らせるはずだ」

「じゃあ、両親や婚約者にも会えますか?」

「……それは、難しいだろうね」

「…………そうですか」


 手際よく処置をし、手際よく片づけを行うアベリアック。

 その姿にシェリーは少し、既視感があった。


「あの、アベリアックさん。私がリリステナへ来た時、助けてくださりありがとうございました」

「…………私は、医者として当然のことをしたまでだよ」


 どこか思うところがあるのだろう。アベリアックはこちらを見ることなく、片づけを続ける。

 その様子にヘケロンは呆れた様子を示す。


「とりあえず治療は済んだんだ。すぐに帰れとは言わないが、あまり長居するものでもないだろう?」

「アベリアックさん。師匠から伝言です……狩人の動向がおかしい、拠点を移すべきだ。とのことです」

「……フランクウッドさんが、そのように?」


 アベリアックはヒュースに向き直った後、ヘケロンの方をちらりと見遣る。

 その様子を見ていたシェリーは確信する。ヘケロンとアベリアックは何かしらの確信に迫るための情報を知っていると。

 しかしながら、無理に聞く理由はシェリーにない。義姉が幽閉されている。確かに情報はできるだけ欲しい。それでもヘケロンを敵に回すのは得策じゃないだろう。

 そんなことを考える。


「だが……私は協会の人間に顔が割れている可能性がある……もし……街で彼らと出会ったら? もし、移動した先で見つかってしまったら? 私はそれらが怖いんだ……」


 胸を押さえながら語り始めたアベリアックは、次第に崩れ落ちていき過呼吸になっていく。よほどの恐怖が彼にはあるのだろう。


「ヒュース君……考えては、おこう……ただ、やはり、そろそろ帰っては、くれないだろうか?」

「……分かりました。そうします」


 アベリアックに促されるまま、その場を後にする一同。

 そこにヘケロンの姿はない。それに疑問を持ったのか、シュバリエが問いかけた。


「ヘケロン……様は、どうされるのですか?」

「私が君たちを案内したのは、何も仮面欲しさだけじゃない。そうだな、街を歩くのならこれを付けておくといい」


 そう言うとヘケロンは、シュバリエの首元に金色の獅子の牙が彫られた首飾りを取り付けた。

 シュバリエはそれを持ち上げて問いかける。


「これは?」

「それがあれば、魔術師の連れである証明になるだろう。私も、フランクウッドとの約束は果たさねばならぬからな……」

「……そうですか」


 遠くでシュバリエを呼ぶ声がした。シュバリエはヘケロンを暫く見つめた後、自身を呼ぶ者たちの元へと走っていった。


「さて、アベリアック……私と話をしようか」

「…………ええ」



 ◇



 アベリアックは息が詰まりそうになっていた。

 目の前に立つ機械的な男。いや、魔女になり損ねた古より生きる魔術師。そして渦中の中心で笑みを浮かべる男と、知り合いだった者。

 それが、ヘケロン・オディクスという存在だ。


「本日のご用件とは?」


 息が苦しい。変に呼吸しようと意識した時のような、喉をつっかえる感覚。このまま呼吸を忘れてしまうのではないかという恐れ。


 目の前の男の姿がやけに大きく見える。

 その仮面の堀が、より深く見える。

 その奥の深淵がこちらを覗く。


 怖い。


「そう怯えるものじゃないさ。私はただ、君のために報告に来ただけだよ……」


 その声は喜びを帯びていた。


「一時だけとはいえ、君のような医師が、彼の。ディガードの元についていてくれた。だから……人はようやく、魔女となるだろう」

「――ッ……!!」


 手の震えが、息の乱れが、止まらない。

 私のせいじゃ、私のせいじゃない。そう、強く信じたい。


「私は、私は、私は……私は! ただ……皆を救えるものだと……思っていたんだぁ!!」


 アベリアックはいつの間にか顔を赤くし、泣き崩れていた。

 それに対し、ヘケロン・オディクスは淡々と感謝する。


「皆救われるさ。全ての人間が更に進化した魔女となり、魔術の制約がなくなり、人々の生活はより豊かになる……」


 アベリアックは思い出す。協会の奥で行ってきた数々の非道な実験の全貌を。

 真っ赤に染まる思考。自身が取り返しのつかないことをしたのだと、常々思う。


 その全てをフランクウッドに話せたのなら、何かが変わっただろうか。彼なら受け入れてくれただろうか。

 一緒に、どうすべきかを考えてくれただろうか。

 マーキュリーに伝えていれば、どうしただろうか。

 静かに爪を研ぎ、いつか来るその日を阻止してくれただろうか。


 否。全て無駄なのだ。


 いや、そうじゃない。ただ、怖いのだ。自身がしてきた全てを話すのが、拒絶されるのが……。

 私は愚かだ。臆病だ。それ故に、この事態を招いたのだ。


 アベリアックはシェリーのことを思い浮かべてこういった。


「すまない、シェリー君……私は君を……救えなかった…………」

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