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23.良質な素材

注意:この作品は途中から読まれることを想定して作っておりません。

 バトルものではありますが、キャラクターの積み重ねを重要視した構成となっており、世界観も複雑化しております。

 一部キャラクターの描写には伏線となる箇所も多分に含まれるため、一話目から読むことを強く推奨しております。


「さて!」


 びくりと肩を震わせる一同。ヘケロン・オディクスが凄まじい声量で叫び出したのだ。


「フランクウッド、例の物を……」


 かと思えば、急に静かになる。


「わかったよ、持ってくるから少し大人しくしていてくれないか?」

「よかろう」


 フランクウッドは急ぎ足で、自身の仕事机へと向かい、ボコボコとした木製の仮面を取り出した。

 意図的に作られたであろう窪みと、外を見るための穴が開けられていないことから、被るための物じゃないことが見て取れる。


「骨董市で見つけてね。何に使われていた物かは分からない。ただ、君にとっては意味など必要ないだろう?」


 フランクウッドがその仮面をヘケロン・オディクスに手渡すと、彼の体はわなわなと機械的な音を立てながら震えだす。


「おおおぉ!! この美しい木目ぇえっ!! 麗しき造形美! まさに絶頂! 大興奮っ!! まさしくビューティフォーォォッ!!」


 人と言うのは、発狂した人間を見つけるととてつもない恐怖と、近寄りがたさに染め上げられるらしい。

 シェリーは固まり、シュバリエはただ見つめ、マーキュリーは後退る。そしてエレナは放心状態に陥っていた。


「ちょっとフランクウッド、何なのよそいつ」


 マーキュリーはあまりの出来事にフランクウッドを問い詰めるが、彼は目を逸らすだけ。

 その様子を見て、ヘケロン・オディクスは言う。


「君、仮にも私は初対面の相手だ。もっと敬意を示したまえ」

「初対面に敬意も何もないでしょ、それにそんな仮面で興奮するような奴なんて、狂ってるとしか言えないでしょ」


 これに関しては両者のそれぞれの意見が正しい。


「何? 君はこの素晴らしさ、美しさ、泣く子も黙る造形美に、魅力を感じないというのかね……ぇッ!? oh……Jesus」

「やかましいわっ!」

「さて、早速だがどの子がシェリー・フルールだ」


 またしても急に冷静になるヘケロン・オディクス。

 そのあまりにも気味の悪い姿に、マーキュリーは辟易とし出していた。


「まーまー、マーちゃん。あの人は、いつもあんなだから……諦めるしかないよ」

「……うそでしょ……?」

「それが本当なんだな~……いや、本当に」


 ヘケロン・オディクスはフランクウッドに紹介されて、シェリーの元まで歩く。

 当然、シェリーはフランクウッドに助けを求めるが、フランクウッドは少し諦め気味に頷いた。

 そんな中、口を開いたのはシュバリエだった。


「一つ、疑問なのですが、ヘケロン様。貴方は本当に人間なのですか?」


 ヘケロン・オディクスは首をぐるりと回してシュバリエの方を見つめ、遅れて体ごとシュバリエに向きなおす。

 緊張した空気が流れる中、ヘケロン・オディクスは吐き捨てるように言った。


「ほう……分かるのかね?」

「ええ、私の体の構成と非常に酷似していますので……魔術を幾層にも練り重ねて作られた体。到底ただの人や、魔術師のそれではありません」

「君と一緒にされるのは心外だ」

「と言いますと?」

「私は、君を作り上げた者に心当たりがある。が、その片割れを酷く嫌っていてね……それと一緒などと反吐が出る」

「待ってください! それはどういう」


 シェリーは話に割り込んだ。義姉の手掛かりになるかもしれない情報だ。できれば聞いておきたい。

 それに、フランクウッドや周りの面々も驚いた様子ということは、ここで逃せば聞き出せる機会がもうないかもしれない。


「私の情報は重い。それに君たちに話すほど、私は人を好きでもない。何より、今は気分じゃない」


 ぐるりとシェリーの方を見つめ、ヘケロン・オディクスは淡々と言った。


「ヘケロン。彼らは、君の嫌っている存在相手に一矢報いることが出来るかもしれない」

「フランクウッド、それは希望的観測だな。それに私は嫌ってこそいれど、干渉したいわけでもない……まあ、しかし。そうだな」


 ヘケロン・オディクスは間をためる。


「我々魔術師にとって、魔女と言うのは憧れであり、畏怖と信仰すべき存在であり、良質な素材だ。奴はそこに付け込んだ……これくらいは教えてやってもいいだろう」

「ちょっと待って……良質な素材? それに奴はそこに付け込んだって何!?」


 マーキュリーも魔女の体が良質な素材であることは、頭では理解していた。

 しかしそれでも、内側からほんの少しの怒りが、滲みだしてきてしょうがないのだ。

 それに口ぶりからして、この状況を作り上げた存在をヘケロン・オディクスという男は知っているのかもしれない。

 ならば、問い詰める他あるまい。


「……君も狩人側に付いているのではないのか? 君に刻まれた魔術式は彼らの色だ。それならばわかるだろうに。君たちが扱う武器がいい例だ」

「……」


 マーキュリーはぐっと押し黙るも、その奴とやらについて尋ねようとした時だった――


「――はいは~い、こんな暗ーい話は終わり!! ね、今日はヘケロンが列車に乗せてくれるんだよね?」


 そんな重たい空気を換えるべく、アンリーが話を切り上げたのだった。

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