表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/72

22.長い道のり

追記:この作品は途中から読まれることを想定して作っておりません。

 バトルものではありますが、キャラクターの積み重ねを重要視した構成となっており、世界観も複雑化しております。

 一部キャラクターの描写には伏線となる箇所も多分に含まれるため、一話目から読むことを強く推奨しております。


 夜明けの空が煌々と、部屋の中に明かりを落とす。

 乾いた唇と、真っ赤に腫れた目にはどうも眩しすぎる。


 そんなことすら、エレナは思えないでいた。


 階段を上る足音が聞こえる。


「あ、あの! エレナさん……!」

「今は一人にして……」

「貴方のご両親からの手紙をお持ちしました……!」


 シェリーは必死だった。

 それもそのはず。まだ、エレナに手紙を渡せていないことに気が付いたのだから。


 今の自分にできること。それは彼女の心の闇を晴らすこと。

 自分が皆にしてもらったように、シェリー自身も誰かの光になれたのなら……この、何度も渡し損ねた手紙をようやく貴方へと――届けられる。


「エレナさん。もう、大丈夫ですよ」


 エレナが振り返ることはなかった。

 それでも、彼女の瞳には、とうに枯れ切ったはずの涙があふれていた。


「違う……私は魔女なの……」

「例えそうだとしても、貴方のことを待っている人がいるんです……!」


 シェリーは必死に伝える。


「違う! やめて!」


 それをエレナは拒むように、耳を塞いで蹲る。

 シェリーは重たい息を飲み込むと、カバンから一通の手紙を取り出した。


「愛しいエレナへ。あの時は貴方のことを拒絶してしまってごめんなさい」

「お願い、もうやめて――!!」


 エレナは思わず振り返る。それに対してシェリーは涙ながらに微笑んだ。


「やっと、こっちを見てくれましたね」

「違う、私は……エレナ・クロードなんかじゃない! ただの悍ましい怪物なの……! だからもう、構わないで……」


 込めた力がだんだんと、弱弱しくなっていく。


「じゃあ、なんで貴方は泣いているんですか?」

「それは……」

「もう、大丈夫。もう、大丈夫ですよ」


 気が付いた頃には、エレナはシェリーの胸の中に抱かれながら、涙を流し、その想いを叫んでいた。


「私は、誰なの……? 魔女なの……それとも、人なの……? それすらも、もう分からない……」

「なら、私と一緒に探しましょう」


 それは陽だまりに浮かぶ天使の様だった。

 温かで、軽やかで、この心を溶かすかのような。そんな小さな天使だった。


「エレナ……?」


 聞きなれた声。その方向にエレナは思わず顔を向ける。

 そこには、フランクウッドと両親の姿があった。


 泣き崩れながら、母が謝罪する。


「ごめんなさい……私たち、ただただ怖くて、貴方のことを信じてあげられなかった……」


 シェリーはエレナを抱きしめるのをやめ、彼女らからそっと離れ、フランクウッドの元へと向かう。


「お母さん、お父さん……私…………」

「もう、いいんだ。本当にすまなかったなぁ……エレナ」


 普段、涙を見せない父が子供のように泣きじゃくる。


「私、もう少しだけ、生きていていいのかな……?」

「「もちろん。お帰り、エレナ……!!」」


 それを見て、フランクウッドは一つ頷き、シェリーに言う。


「しばらく、親子だけにしてあげようか」

「……はい」



 ◇



「さて、落ち着いたかなエレナさん」

「はい、おかげさまです……」


 フランクウッドと対面するエレナと、それを見守る形でくつろぐ、リリステナの面々とマーキュリー。


「それは何より……君も薄々気づいているとは思うが、当分この辺りでの暮らしはできないだろう」

「……はい」


 この辺りは王都の防壁の外に位置している。魔女によって故郷を追われた者たちが集まり、作り上げられた街。

 もちろん、防壁の建設も行われつつあるが、完成するのはもっと先になるだろう。


 蛇足はさておき、王都に近いというのが問題だ。

 王都は随分と広い。それでも狩人たちの本拠地があり、何より、つい5年前に建設が完了した列車で三駅ほどの位置になる。


 知り合いの少ないシェリーならともかく、ここで何年も過ごしてたエレナには身バレのリスクがある。


「そこでだ。君には魔女についての研究をしている、ドクターの元に行ってもらおうと思う」

「ドクターですか……?」

「ああ、君たちの治療も兼ねてね」


 フランクウッドはヒュースの方をちらりと見た。

 魔術で無理やり体を動かしてるだけに過ぎない彼も、いつまでもその状態のままというのはいただけない。


「とは言え、普通の列車はなるべく避けたい」


 フランクウッドは間を置いた。


「そこでだ、君たちにはとある魔術師に同行してもらう」


 街中を歩く奇妙な人影。

 大きなツノを生やし、逆三角形の仮面を身に着けた、やけに大きな人影。

 巨大なリュックと、自身の体を隠すかの様に羽織られた白いローブには、魔術師であることの証明、金獅子の紋章が彫り込まれている。


 その人物はやけに目立つというのに、街ゆく人々は気にも留めない。


 そうしてその人物はリリステナの扉を叩いた。


「……噂をすればか、どうやら来たみたいだね」


 フランクウッドは立ち上がり、その人物を出迎えるべく階段を下りていく。


「さて、紹介しよう」


 アンリーは手で顔を抑えながら天を仰ぎ、ヒュースはおもむろに目を逸らす。


「魔道具師のヘケロン・オディクスだ」


 やけに細長い、人形の様な機械的な手で、ヘケロンは軽くお辞儀する。


「紹介にあずかった。私こそが、美しき仮面愛好家、ヘケロン・オディクスその人だ。以後、お見知りおきを」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ