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20.貴方の想いを共に歩んで叶えたい


 シェリーはゆっくりと目を覚ます。先ほどの悪夢の内容は鮮明に覚えている。

 幼い頃の記憶。それが塗り替えられる恐怖もまだ、残ってる。


 それでも、目覚めはそれほど悪くなかった。


「シュバリエ……?」


 シェリーは気づく。自身の手をシュバリエが優しく包み込んでいたことに。


「お目覚めになられましたか。お嬢様」

「……ええ」


 穏やかな陽だまり。


「あなたが……悪夢から救い出してくれたの?」


 シェリーは自然と泣いていた。それは、悪夢が怖かったからじゃない。

 ただただ、皆の優しさが、気遣いが今頃になって、シェリーの心を抉るのだ。


 最初に救われたのは、老父だった。


 あの人のお陰で、すくすくと成長できたし、色々なことを学べた。

 それに何より、たくさんの愛情を貰った。


 それなのに自分はどうだろうか。初めて魔法を使った日のことを思い出す。

 老父の顔が今でも頭を離れない。だからこそ、彼女は、ロベリアはその全てを燃やそうと唆してくる……。


 そんなどん底から救ってくれた義姉のことだって、まだ助けられていない。

 ここに来てからこっそり盗み読んだ新聞には、自身に対する憎悪は山のように綴られど、義姉のことに関しては何も載っていなかった。

 フランクウッドさんもまだ何も分からないという。


 アンリーの件だってそうだ。彼女にずっと戦わせて、自分はロベリアの力を借りなければ何もできなかった。


 私は……与えられたものに、何も返せないでいる。


「お嬢様、一度夜風に当たってみるのもいいかと思います」

「うん……」


 シュバリエの手を取り、シェリーはベッドから起き上がる。


「……皆は?」

「エレナ様は、リリステナで保護されています。アンリー様はマーキュリー様と外へ、ヒュースさんはフランクウッドさんに連れられてリリステナへと戻られました」

「……そう、なんだ」


 シュバリエはシェリーのハンカチを手渡し、窓を開く。

 今夜の風は凪ぐようでいて心地いい。


 深く息を吸えば、この心までも洗い流してくれるよう……。


「……」


 いや、それでもこの心は洗われない。


「お嬢様。私は、貴方が居なくなってしまうことで、自分の存在意義が失われてしまうのではないかと、酷く不安でした」

「…………え?」


 それは予想外の言葉だった。

 なんで、急にとも思う。それでも、シュバリエは続ける。


「ですから私は、貴方を失いたくなくて、傍からできるだけ離れて欲しくないと思っていました。でも、フランクウッド様に気づかされたのです」


 風が吹き、その花は揺れる。


「――貴方について知るべきだと、貴方についてもっと知りたいと」


 風が吹き付けた月夜の一瞬。自身にただただ献身的だったシュバリエの抱えていた悩み。

 それを乗り越えようとする姿。それに一瞬。ほんの一瞬だけ、自分もこの気持ちを誰かに打ち上げてもいいのではないか。

 そう、思えた気がした。


「――……」


 それでもまだ怖い。こんな思い、この気持ち、考え、悩み、その全てを誰かに話していいものか。

 喉から出かかった言葉を必死に抑える。


「前は、お嬢様なら、何処へでも遠くへと羽ばたけるのではないか……そんな気がしてたんです。それでも今は、貴方の苦しんでる姿を理解することが出来たから、私は」


 シュバリエはぐっと言葉を振り絞る。


「貴方の想いを願いをその全てを共に、歩んで叶えたいのです。私を知るため、そして、貴方を知るために」

「――! シュバリエ、私――」


 小さな、十四歳のその背丈に似合わないような大きな悩み。彼女がこれまで、周囲の人に抱いて来た感情、思い、悩み、その境遇。

 それらを全て、彼女に寄り添ってくれる騎士に、少しだけでも託すことにしてみようと思えた。


 小さな少女と花の騎士は、その夜を語り合う。



 ◇



 小さな、いつもと違ったような、ありふれた一夜。いつもと変わりない光景、夜を飲み込んだ淡い街。

 そんな色褪せたような街を、アンリーとマーキュリーは目的をなく、歩いていた。


 冷たい風に冷たい景色。それでいて、二人の間には軽い空気が流れている。


「お願い、アンリー。死なないで」

「……まえ、話してくれた。おばあちゃんのこと?」


 マーキュリーは何も喋らない。

 アンリーはそんな彼女と並んで歩くが、決して顔を見ようとはしない。


「おばあちゃんが殺されないといけなかった理由、必ず見つけようね」

「あなたには関係ないでしょ」

「え~、でも友達じゃん」


 マーキュリーは言葉に詰まる。


「ただの協力関係に過ぎないわよ……それに、例えそうだとしても、やっぱり関係ないわ」

「なら、もし……マーちゃんが一人で困っていたら、私がその手を掴むから。覚悟しといてね?」


 アンリーはマーキュリーの名を呼ぼうとして、我慢した。

 マーキュリーは今日になって初めて笑う。


「何それ……バカじゃないの?」

「えっへへ~」

「……あなたも、早く生きるための理由が見つかって、少しでも成長できるといいわね」

「……そうだね」


 二人はそのまま、ただただ街の中を疲れてしまうまで歩き続けた。

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