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16.炎と共に(1)


「はいはーい、急いだ急いだ! いっちに、いっちに。ほらほらエレナさん頑張って! フーちゃんも!」


 赤ずきんは、息が上がりかけている魔女である二人の前を走りながら、二人を厳しく先導する。

 できるだけ遠くへと行かなければ、死んでしまうかもしれないのだ。ここで厳しくしなければ、いつ厳しくするのやら。

 そんなことを思いながらも、赤ずきんは脚を大きく上げながら走る。


「ん? んん~? 全たーい、やめっ!」

「うわっ」

「ああっ」


 赤ずきんが急に立ち止まり、赤ずきんの背中に衝突するエレナとフクロウ。しかしながらも、赤ずきんは微動だにしない。


「そんなに急いでしまわれては、怪我をなされますよ……」


 白い長髪をなびかせた、虚ろな目をした気品漂う、白い制服の女性。


「なんか、狩人と言うより、幽霊みたいだね~」

「ふふふ」

「あはははは――」


 穏やかな空気感とは裏腹に、殺気で満たした風船が破裂する。


「そんな物騒な武器担いでおいて、名乗りもしないなんて、騎士の名折れなんじゃないの?」


 赤ずきんが巨大針で弾いたそれ。美しい銀の刀身に、揺らめく炎のような鋭い刃。

 騎士の時代に恐れられたそれを手に、狩人は亡霊のように赤ずきんを見つめる。


 ――フランベルジュ。抉るように、赤をすすった悍ましき凶刃。


「では、名乗りましょうか。オディステラ、以後お見知りおきを……」

「ヒュー……かっこいい」


 静かな邂逅というわけではないだろう。待ち伏せをされたのだ。

 それならば、赤ずきんも、それ相応の対応を取るしかないというもの。


 冷静に、冷たく、鋭く、淡々と。


 亡霊は、赤ずきんを見つめる。

 赤ずきんは、亡霊を見る。


 そのまま二人は――次の一手を繰り出した。



 ◇



 鳴り響く金属音。


 近くて遠い。そう、ルー・ガルーとシュバリエは感じ取っていた。

 先ほどの魔女とは違う。物理的ではない、感覚的な間合いの話だ。


 幹での飽和攻撃も、ルー・ガルーの連撃も、二人の連携も、その全てが防がれる。

 まだアズレアは一歩も動いていないというのにだ。


 一体どれくらいこうしているのだろうか、と二人は考える。が、せいぜい三十秒くらいだろう。

 果てのない終わり。汗がだらだらと流れ、体の熱も冷めぬまま、二人は一歩踏み込んだ。


 シュバリエは幹を腕へと戻し、目の前の敵へと檻のように放ちなおす。それを盾に、隙間からの刺突を繰り出すルー・ガルー。


「バンッ」

「がッ――」


 目の前にいたはずのアズレアは、シュバリエの幹を掴み、上へと身を躱した後、ルー・ガルーの脚を撃ち抜いた。

 宙ぶらりんの状態で、精度の悪い銃火器で、素早く動く人間の、細い脚部を狙い撃つ。


 これが、どれほど人間離れしている行いか。


 幹を利用されたことを悟ったシュバリエは、瞬時にアズレアが掴む幹を地面へと叩きつける。


「バンッ」

「なっ」


 シュバリエの肩に重たい衝撃が走り、バランスを崩す。

 樹木は丈夫だ。当然これくらいのことで貫通などはしない。しないが、バランスを崩した一瞬をアズレアが逃すこともない。


 シュバリエの元へと近づき、よろけた足を掴んで、反対側へと叩きつける。

 小さな体から繰り出される、凄まじい怪力。


 アズレアはすぐさま、銃を取り出し、弾丸を補充する。


「ちょっともったいないけど、仕方ない」


 地面に転がる、火薬の入った弾丸。

 目の前での明確な隙。しかし、ルー・ガルーもシュバリエも動けないでいる。


「さて、ここからは魔術なしで行こうか」


 アズレアは華麗に後ろへと後退し、手を広げる。

 自分たちは遊ばれている。そう感じながらも、二人は立ち上がる。なぜなら、それしか道がないのだから。



 ◇



 ああ、やりづらいな。

 あの長い刀身とギザギザした刃先、流石、騎士たちを恐怖のどん底に突き落とした武器だね。

 それにさっきから、なんだか体の感覚が敏感になってる。


「それがあなたの魔術なわけ?」

「この感覚の共有、素敵でしょう……?」

「趣味わっる」


 この亡霊ちゃんをどうにかしないと、エレナさんもシェリーちゃんも逃がせない。

 とはいえ、それは相手も同じ。私をどうにかしない限り、あの二人に手出しができない。


 なら、私ができるのはただ一つ、避けて、崩して、隙を狙う。

 これだね。


 フランベルジュを横に薙いだオディステラの攻撃を避け、赤ずきんは彼女の脚を掠め取ろうとする。

 ゾクリと身を焦がす恐れ――亡霊はただ静かに、赤ずきんを見下ろしながら、薙いだ剣を切り返し、上へと振り上げる。


「やっばっ!」


 すぐさま横に転がる赤ずきん、その横腹にフランベルジュの切先が触れる。


「ぐうううぅ……痛ったぁ!」


 プツリ。肌の表面を刃が通り、切り口から血液がプクリと膨れ上がって、流れ出す。

 過敏。これが、ほんの少しの、なんてことのない掠り傷をはち切れんばかりの痛みに変える。


「今のを避けますか……いいのが入ると思ったのですが……」

「ふっ……やっぱり、あなた。いい性格してるみたいね」

「お褒めに預かり光栄です」

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