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13.かくれんぼの続きを


 何処までも続きそうな廃墟の中で、魔女はままごとの続きを始める。

 水の出ないキッチンで、そこらに落ちてた木片を手に、石ころで食器を洗う真似をする。


「ねえ、エレナ。私とあなた。ピエロと踊って夢を見る」

「――」


 エレナが振り返る。そこに居るのは自身そのもの。

 彼女はエレナに優しく微笑みかけて、手を伸ばす。エレナもその手を取って踊りだす。


「一つ二つと泡になる」

「そして弾けて理想郷」

「そうそう。さあ、エレナ、私と一緒に遊びましょ?」


 軽やかなステップで、二人で一つとくるくる回る。無邪気に草原を駆ける子供のように、くるくるとスピードを上げていく。

 やがて、疲れて手を放し倒れこむ二人は、明るい笑顔を浮かべ互いに見合う。


「素敵ねエレナ」

「ありがとう、エレナ」

「……さて、ちょうど彼も来たことだし、かくれんぼの続きを始めてみない?」


 エレナが指を指した先に目を向ける。そこには愛しの彼がいた。

 その表情は険しいながらも、エレナは気にせず屈託もない笑みを浮かべて頷いた。


「カトール、私を見つけてね――」


 ――広い廃墟の一室で、ヒュースたちは魔女と相対した。

 彼女は洗い物に興じたかと思えば、突然奇声を発し、鼻歌交じりに踊りだし、倒れこむ。

 かと、思えば急に笑い、ヒュースたちを見つめて、そう語っては廃墟の奥へと走り出してしまった。


 ただただ、淡々と。


「エレナさん……! 待って!」

「お嬢様、お待ちを」


 エレナを追いかけようとしたシェリーをシュバリエは静止する。


「シュバリエ、エレナさんが」

「分かっております。ですがこれを……」


 シュバリエはエレナが持っていた木片を拾い上げ、彼女が走り出した方向に投げ入れる。

 ――グシャリと、音こそはしなかったが、木片は捻じ曲がり、宙にしばらく滞空した後、素早く落下した。


「――……ごめんなさい」


 伸ばした手を静かに下し、胸元に持ってきたシェリーは俯き謝罪する。

 それに対してシュバリエはただ優しく、自身から離れないようにと答えた。


「フクロウ、現状は最悪の状況そのものだ。貴様は既に、この仕事を体験する立場にない。むやみに先行しようとするな」

「……はい」


 ヒュースも彼女の焦る気持ちも、自身とエレナを重ねてしまう境遇も理解していた。それでも、今ここで叱っておかなければ、彼女を失うことになる。

 それは、リリステナとしてはよろしくないことだ。打算的ともいえるだろう。


 ルー・ガルーのそんな所を赤ずきんは嫌っていた。


「……よく見ると、空間に歪みがあるね。あれを避けて通ればいいのかな?」

「だろうな俺が先行する。そこを付いてきてくれ」

「は~い」


 ルー・ガルーは後続が付いてきやすいスピードで、歪みを回避しながら魔女エレナの元へと一歩一歩と近づいていく。

 近くなってくる鼻歌と、その異様な後ろ姿。そして、やっと追いついたと思った時だった――魔女エレナがこちらに振り返り、キョトンと首を傾げた後。


 悍ましい殺気が全員を貫いた。


「「「「――ッ!」」」」

「どうして――ッどうして、ついて来ているのおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「避けろッ!!」


 全員が回避を取った後に残された場所。そこには抉れて盛り上がった地面が槍となし、溢れんばかりの殺意が見て取れる。


「お嬢様、ご無事ですか?」


 シェリーを優しく抱きしめながら、シュバリエは聞く。

 咄嗟のことだったというのに、彼はシェリーを助けることを優先したのだ。

 正直、シェリーの実力だけでは、先ほどの攻撃を避けることは難しかっただろう。


「ありがとう、シュバリエ」

「いえ、お嬢様がご無事なようで何よりです」


 人ではない異形の姿だというのに、こちらを気遣いほほ笑む姿が頭に浮かぶ。

 だからこそ、胸が痛む。なぜ自分なんかをそれほど大切にして、お嬢様と慕うのか、それがシェリーには分からない。


「……なるほど、そういうことですか……」

「え?」

「ああ、いえ。私に思うこともあるでしょう。そちらは、帰ってからゆっくりと話しましょう」


 シュバリエが向いた先、そこには暴れ続けるエレナの姿があった。


「ええ、そうね」

「よっと。フーちゃん、決意を固めたところ、悪いんだけど、シュバリエと一緒に待っててくれる? ここからは――」


 シェリーの元へと駆け寄った赤ずきんが、軽やかに言う。


「スピード勝負になるからさ?」

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