11.僕の遊び場(2)
アンリーの指摘は随分と的を射ていた。
長い逃走劇を繰り広げているシェリーだが、そのほとんどが、狩人の戦闘を避け続けていることでそれを成立させていた。
つまるところ、狩人とまともに戦ったことが少ないのだ。
「そうですね……私は彼らの武器について、あまり詳しくありません」
「私、云々の前にシェリーちゃんに死なれると困るんだよね。ぶっちゃけ、今回シェリーちゃんがこの仕事に携わってるのだって、先生の我儘みたいなものだし」
「アンリー口を慎め……」
ヒュースはフランクウッドを悪く言われたことに、少し怒りの色を滲ませていた。
彼にとってアンリーは仲間であって同志ではない。
「は~い」
「……まあいい。でも、確かにそうだな、魔術がどんなものなのか、基礎的な知識は付けておくべきだろう」
「……お願いします」
ヒュースはシェリーに魔術についての説明始める。
魔術とは、人が魔女に近づくために作りだした、古くから存在し続けていた術だ。
最も、ヒュース含めその存在が世間に明るみになったのは、ここ十年ほどの出来事ではあるのだが。
魔術が魔女に近づくための術だというのであれば、当然差が生じてくるというものだ。
例えるのなら、魔女の扱う魔法を無尽蔵に湧き続ける火薬といえ、魔術は火薬の爆発に指向性を持たせた銃火器といえるだろう。
「魔女に銃火器の類は友好的ではないというに、この表現が適しているというのは、随分とした皮肉だがな」
「そこは、例えですので……」
「……続けようか」
現時点では魔術は一つの体に、一つまでしか刻むことが出来ない。
身体強化、他干渉、放射、共有これら、基礎となる四つの中から一つを選び、各々がそれをカスタマイズしていく。それが魔術だ。
「カスタマイズと言ったが、これも不可逆的ゆえ、魔術選びは慎重を極める。例えば、俺は身体強化に加速を付与している」
ヒュースは腕を横に広げ、魔術を使う。ほんの一瞬だけだが、体に刻まれた術式が淡く発光したのが見て取れる。
「身体強化に加速?」
「身体強化は自身に、他干渉は自身以外に、放射は疑似的な魔法を放ち、共有は自身とそれ以外に同じ術を施す」
アンリーはそんな二人のやり取りを突っ伏したまま、静かに聞く。
「であれば、ヒュースさんは自身の動きが速くなるように、そのような変化を?」
「ああ、加速は純粋な速度強化に比べ持続時間が極端に短いが……いや、ここから先は不要だな。とにかく、魔術は奥が深い」
「相手の扱う魔術が何に対して作用しているのかを把握し、そこからどのような効果なのかを考える必要がある……と?」
「ああ、魔女の力は純粋な暴力で驚異的だが、特性を理解すればある程度、対処法を一貫させられる」
「と言うと、魔術は個々人の技巧によるものが大きく、その時々で対処法が変わる……と?」
ヒュースは一つ頷いた。
説明が終わったことを察し、アンリーは補足する。
「ちなみに、私なんかは他干渉で道具を介することを条件に組み込んでいたりもするよ~」
「厄介ですね……」
「その反応を見ていると、貴様が今まで逃げ延びてこれたのが不思議に思えてくるな……」
ヒュースの疑問にシェリーは申し訳なさそうにする。
「すみません……」
「いや、謝ることじゃないさ。むしろ、よく生き延びてくれたな」
アンリーはため息を付いた後、説明が終わったのならエレナについての話をするよう、促す。
「ああ、そうだな――」
その後、彼ら三人はエレナについての情報を共有し、シュバリエを回収しに行くことにした。
こんにちは、ここからは展開の都合上、複数話ずつでの投稿となりますので、間隔が大幅に空いてしまう可能性がございますが、ご了承ください。




