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11.僕の遊び場(1)


 マーキュリーはリリステナを後にしてから気づいた。

 封筒から一枚の写真を取りだし、確認する。長いサイドヘアーにポニーテールの、傲慢そうな目をした男が、どこかの建物に入って行く所を撮った写真。

 写真の腕前から、フランクウッドが撮ったわけではないことが伺える。


「……聞きそびれたわね」


 ちらりと裏を見る。そこには一言――近づくな。

 おそらく、ただならない人物なのだろう。


「気を付けておきましょう」

「ん~? 何に気を付けるのかな?」

「――ッ」


 マーキュリーは反射的に距離を取る。

 後ろから聞こえる、中性的な声の主が誰なのか、それを理解していたからだ。


「女の子が夜に一人で歩くなんて不用心ってものだよ? マーキューリーちゃん」

「あんたの顔も、大概に可愛らしいと思うけど?」


 マーキュリーは目を見開き、冷や汗を流す。

 目の前にいる狩人は、可愛らしいと言われ、嬉しそうに頬を染めながら口元を隠す――先ほどまで、マーキュリーが手にしていた写真を使って。


「えへへ、僕は大丈夫だよ。だって男の子なんだから」


 女性と見まごう容姿に、低めの身長、白い制服を着こなす男。

 何を隠そう、彼が先ほどフランクウッドと話していた上級狩人、アズレア・ノノハその人だ。


「ねえ、この人誰? 魔女じゃないでしょ?」

「私も知らないわよ」

「ふーん?」


 アズレア・ノノハはマーキュリーの周りを一定の間隔で歩く。

 音のしない足さばきに、少し目を離せば見失いそうな希薄な気配。

 間違いなく、バックアップとしてでも自身が劣っていることを痛感させられるマーキュリーだが、最も彼は――


「――面白そうなことなら、僕も混ぜてよ?」

「――ッ……」


 顎に突き立てられる短剣に、マーキュリーは歯を出しながら、苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる。

 それはほんの一瞬、瞬きの瞬間にマーキュリーの傍まで近づいたのだ。


「僕が何でアタッカーしかやらないのか、君に話したよね? 僕はこの世界を遊び尽くしたいんだよ……退屈な世界に刺激を求めてるの。わかる?」


 鋭さと柔らかさを織り交ぜながらアズレア・ノノハは語る。


「…………」

「……言いたくないの? なんで? 僕じゃダメだって言うの?」


 鋭い牙を剥き出しにした、無邪気な子犬のようにねだるアズレア・ノノハ。

 それでもなお、沈黙を続けるマーキューリー。


「ま、いっか。僕は僕の直感に従うとしよう。君が何をしでかすのか、傍から見るのも面白そうだ」


 短剣を下し、マーキューリーに手紙を返す。


「じゃあね、もう辺りも暗くなってるし、気を付けて帰ってね」


 そのまま、アズレア・ノノハは闇夜に消えていく。


「くそ……最悪ね」


 そう吐き捨てながらも、マーキューリーは、このことをフランクウッドに伝えたい気持ちを抑え、一度急いで帰路に就くことにした。



 ◇



 気まずい雰囲気の中、ドルクのパン屋の屋根裏で情報共有が行われた。

 ヒュースとアンリー、そしてシェリーの三人で情報の共有を行い、実際に魔女エレナに会いに行く際にはシュバリエも参加する運びとなっている。

 本来であれば、これほどの大人数で当たるものではないのだが、それも全て――


「――上級狩人アズレア・ノノハが、魔女エレナの討伐に名乗りを上げているそうだ」

「う~ん、あんまし芳しくないって感じだね~」


 部屋に置かれていたぬいぐるみの腕を上げ下げしながら、アンリーは言う。


「あの、そのアズレア・ノノハという方は?」


 シェリーは手を上げ質問する。


「狩人側の最高戦力で、完全な魔女化を果たした相手に短銃を使うような変態だ」


 完全な魔女化……そもそも、魔女の力の根源にあるのは、強い防衛本能に由来する。

 傷ついた体を癒す、驚異的な再生力。

 相手の攻撃を受け付けない、刹那の危険予知能力。

 敵を殲滅するためにある、魔女毎に有する特有の魔法。

 そして、それら全てを持ってしても自身の命が脅かされると感じた時に発現する、魔女化の力。


 これらが魔女を生かすための役割を果たすと同時に、人々が魔女を恐れる理由でもある。

 しかしながら、人々が魔女と聞いて思い浮かべるのは、この完全な魔女化の姿だろう。


「何故、わざわざ不利な消耗戦を仕掛けるのですか?」

「う~ん……純粋に戦いを楽しみたいからじゃないの?」

「信じられないです……」


 暫しの沈黙が場を包む。


 完全な魔女化とはまさしく異形の怪物。

 造形は、ほとんどが人型を保っているが、明らかに人でないことがわかる見た目。とでもいった所だろう。

 ある魔女は巨大な帽子が頭を覆い尽くし、ある魔女は上半身だけが鳥のような見た目になったりと様々だ。


 そんな相手に一発一発を装填しなおす必要のある、小銃や短銃を武器に戦うなど正気の沙汰じゃない。

 それに、まだ遠距離からの攻撃が通るのであれば理解もできる。一定の距離を保ちながらの、引き撃ちを行うことなどもできるだろう。

 しかし、完全な魔女化を果たした者は、大抵の場合、何事もないかのように受けるか、対処されてしまう。


「……しかし、そのスタイルで奴は上級狩人に上り詰めた。俺も一度やり合ったことがあるが、おもちゃとしか思われていなかった」

「……であれば、その方に見つかる前に、エレナさんを探しましょう」

「まぁまぁ、シェリーちゃーん、そう焦る気持ちも分かるけどさぁ~? シェリーちゃん、魔術についての理解とか――浅いでしょ?」

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