108.分からない
ヘケロンは何人かの魔術師へと頼みごとを行った後、カレディアたちが待つ玉座の間へと身を隠す。
そしてほどなくして、その場へと現れるディガードを見て、ヘケロンは胸を躍らせた。
――ああ、ディガード。
「ディガード、此度は召集といった形での呼び出しになってしまったことを、まずは謝罪しよう」
急な呼び出しに身構えていたディガードは、カレディアの謝罪に少し動揺を示した。
「して――ゲホッゲホッ……あぁ、すまない」
咳き込むカレディアを心配する、周囲の視線。
しかし、当の本人はいつものこととディガードへと向き直り、話を再開する。
「んっん……して、今回呼び出した訳だが……狩人の中から魔女が出たと聞く。それは事実か?」
「はい、事実です」
「なぜそのようなことが起きた?」
「現在調査中の為、断言はできませんが、裏で手引きを行った者がいるかと」
ディガードは内心で、ロイシアンに対する苛立ちを覚えながらも、冷静に受け答えを行う。
オディステラの一件の際に、偶然とはいえ現れた野良人、あれらについて話をすればいい。
そう、ディガードは考える。
「手引き? 協会内に魔女に味方をする者がいるというのか?」
「おそらくですが……」
カレディアは額を抑えて考える。
「ディガード。これがどれほど危険な状態か理解しているのか?」
「…………はい、国全体が再び混乱に飲み込まれ、皆が疑心暗鬼へと陥ることになるでしょう」
カレディアはディガードのその言葉を聞いて「何故」そう内心で思うのであった。
「何故、そこまで分かっていて……」そんな悲しみに染まった声を抑え込む。
カレディアの目には、ディガードがこの状況で焦っているようにも見えないのだ。
いや、それ自体に問題があるわけではない。
問題は、それらの原因については「調査中である」とディガードが口にしたことにある。
「して、その裏切り者については何処まで掴めているんだ?」
「…………」
ディガードは言葉を選ぶ。
それを見て、カレディアは苦しみを滲ませた。
「分かっておりません」
「そうか……ではディガードよ、もう一つ質問をさせてくれ」
「はい」
ディガードはカレディアの振る舞いの機微から、何を聞こうとしているのかをある程度察し、身構える。
「何故、先日は【罪火の魔女】を取り逃がすような真似をした?」
ヘケロンに言われた言葉で、ディガードへと鎌をかけていく。
自身の言葉でないからにして、カレディアにはそれを上手く隠すことが求められていた。
「……陛下、お言葉ですが、私は取り逃がすような真似など――」
「――ディガード、貴様は何を企んでいる?」
カレディアは覇気を強め、嘘を演じる。
ディガードは思う。随分と得意げだなと。
――それもそうか。王の器に育ちきっていないにも拘わらず、王へと担ぎ上げられたのだ……嘘を付くことくらい自然と上手くなるだろう。
「そのようなこと、一体、どなたから吹き込まれたのですか? 陛下」
「自身の行動を振り返ってみることだ、不自然な点がよく目立つ」
ディガードはゆらりと立ち上がり、髪を後ろへと乱雑に纏めあげる。
その様子に、周囲の兵士が武器に手をかけ、いつでもディガードを抑えられるようにと、警戒の色を示した。
「陛下。貴方は嘘を付くのがお上手なようだ」
「嘘だと……?」
「ええ、嘘でしょう。どこの誰かは知りませんが、一つ教えておいてあげましょう。陛下は人を責め立てることを嫌う」
ディガードは周囲を見渡し、どこかに隠れているであろう、何者かに向けて言葉を投げかける。
「……」
その言葉を聞き、カレディアは言葉を詰まらせた。
今のディガードは明らかにおかしい。だが、彼のことを否定しきれない自分がいるのだ。
「ましてや、あの日私は、【罪火の魔女】と行動を共にしていたもう一人の魔女の対処へと当たり、それを討伐した」
カレディアの仮面が崩れていく。
胸がキュッと苦しくなっていく。
「それも、未知の魔女であるからにして私が当たった方がいいという正当な理由だ。そんな私を陛下が……ましてや【罪火の魔女】の名前をわざわざ出してまで疑うなど、普段の性格からして不自然なわけだ」
ディガードはため息を吐き、カレディアの方へと視線を向ける。
それはとても冷たく、こちらを見下しているかのようだった。
「……!」
その様子に、コートルが剣を抜く。
「ならば……ならば、ディガードよ……何故……そのような…………」
「もう疲れたのですよ。陛下。束でかかってきたところで、私に勝てるわけもない集団の相手など」
「それは……いや、それは……」
カレディアの中で今のディガードが何なのかが分からなくなってくる。
「ディガード……君は、魔女なのか……?」
そんな壊れそうな感情の渦の中で、カレディアがポツリと投げかけた言葉にディガードは反応した。
「なに?」
――そろそろか。
ヘケロンは暗闇の中から歩き出し――
「いやはや……bravo、bravo!!」
――ディガードの真後ろで拍手を送るのであった。




