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お嬢様、私とワルツを踊りませんか?  作者: 踊る大福
モース硬度の行く末に
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107.確かに本音


「ヘケロン殿……それは、どういう……?」

「……そうか」


 ヘケロンはその場で制止し、そう言葉を吐いた。


「……君は魔術に長けてはいなかったか? いやはや……興味とは……いや、そうか、そうだったか。いやはや、すまない謝罪しよう」


 ヘケロンは首を傾げた後、カレディアへと謝罪をする。

 その様子はどこか気持ちが悪く、不快感のあるものだった。


 ヘケロン自身には、カレディアを不快にさせようなどといったつもりはなく、それが逆にたちを悪くしているのだが……。

 そこについて深く話すようなものでもなくして、カレディアはそれを黙っていることにした。


「……君の疑問は最もだろう。今までの魔女は女性からしか確認できなかった」


 カレディアはヘケロンの話へと真剣に耳を傾ける。

 先ほどヘケロンが口にしたこと、「魔術に長けてはいない」それは事実なのだ。

 しかしながらそんな状態でディガードと敵対するかもしれない。


 ヘケロン・オディクス。彼もまた、素性の知らない男であるからにして頼りたくないのが、カレディアの本音ではあった。

 ただ、現時点のカレディアには拒否権がない。


 半ば強引に王城へと乗り込み、あっという間にカレディアの護衛を倒してしまった怪物。

 そんな彼が口にした言葉「助言をしに来た」今は、その言葉に縋る他ないともいえる。


 あの戦いの結末を思えば、カレディアたちは実質、魔女と同等の力を持つかもしれない怪物に、飼われているにすぎないのだ。


「私も様々な場所を旅してきたが、今まで男性に化けていた魔女と言うのは一度も見たことがない」

「それでも確信があると?」


 ヘケロンは言う。


「――私は、ディガードと言う人物についてそれほど知らないが」


 そんな前置きをヘケロンが挟んだのだ。


「十年前の彼と、今の彼では明らかに人が違う。そう、君も思わないか?」

「それは……」


 十年前のディガードは狩人や魔術師を引き連れ、積極的に表へと出て活動を行っていた。

 魔女の被害にあった場所へと積極的に駆けつけ、その支援を行う人格者とでも言えるような人間だった。


「傍から見てもそう感じるのだ。当然、思い当たるふしがあるのだろう?」


 ヘケロンはカレディアの不安を肯定する。


「それに、この十年で我々は魔女についてどこまで知ることが出来た? 全くだ。全く知ることが出来ていない」


 そうだ。狩人たちは魔女について対策を講じ、戦い、それらの生態について調べている。

 しかしどうだ。十年と言う月日をかけてもまだ、それらの正体やどう成り代わっているのか、いつ成り代わっているのか、どういった条件が、どういった環境が魔女を生み出しているのか、それらを何一つ掴めていない。


 そもそも魔女は女性ばかりを狙っているが、魔女が現れ始めた頃は「人に成り代わる」そう言われていたはずなのだ。

 男性に化けた魔女……それを否定するには、あまりにもいろいろなことが不明瞭だ。


「そもそもとして、我々は男性に化けた魔女という存在を否定できるのか?」


 その言葉にカレディアは、思わず目を見開いた。

 こちらの考えを見透かしたかのようにヘケロンは言うのだ。


「…………それは」

「それに先日の一件を思い出してみるといい」

「……狩人の中から魔女が出た」


 ヘケロンはそれを肯定する。


「そうだ。何故狩人内部に魔女が現れることが出来た? それもその人物は上級狩人と共に行動をするような者だったのだろう?」


 カレディアの顔から血の気が引いていく。


「……いつから」


 それは、ポツリと呟かれた不安。

 それをヘケロンは見逃さない。


「私はそれを知りえないさ。ただ、君ならわかるかもしれない?」

「私になら……」

「彼が変わったタイミングと、その前で何か大きな出来事はなかったのか?」

「それは……」

「ほら、君の胸の奥によく問いかけるといい。敗戦濃厚だったこの国に魔女が現れた時、それを救ってくれたのは誰だった?」


 確か、ディガードが変わり始める前には……――


「出現した魔女の討伐に、彼が一人で向かっていた……」

「…………そうか。もしかすると、その時には既に………………」


 ヘケロンはそんなことを口にする。


 カレディアとコートルの二人から、確かな動揺が見て取れる。


「では、最近の彼は……」

「魔女である可能性が極めて高いと言えるだろう」


 カレディアは考える。


「ですが、まだ決めつけるには早すぎるのではないでしょうか?」

「ああ、だからこその招集なのだよ。ディガードを呼び出し、その正体を探る」

「しかし、それは相当な危険が」


 ヘケロンは軽く自身の胸を叩いた。


「いざとなれば、私も君を守るとも。だから安心するといい」


 カレディアはヘケロンを見つめる。

 正直、まだ不安は残る。この男を信じてもいいものなのだろうか。


「ヘケロン殿、可能であれば貴方の目的をお聞かせいただけないでしょうか?」

「……私はね、人の積み重ねと言った物が好きなのだよ。だというのに、それをあれらは、めちゃくちゃにしてしまった……しかし、同時に私は一度、目を逸らしてしまった」


 そこに、嘘は一切も含まれていなかった。


「そろそろ終わりにしたいのだよ。この長い道のりを……ここまでに積み重ねてきたものの成果を、全て見届けてから」

「……そうですか。わかりました」

「では――」

「――ですが、ヘケロン殿、やはり私は貴方を信用しきれない。それでも良ければ、ディガードを呼び出しましょう」


 差し出された、カレディアの手を見て、ヘケロンは息を吐いた。


「それで構わない」


 そして、その手をヘケロンは取るのであった。

 内心の喜びを――隠しながら。

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