106.君のため
マーキュリーから渡された写真を見て、ディガードは作り物の笑みを浮かべた。
「…………これでいいでしょうか?」
「ええ」
マーキュリーは目をディガードから逸らし、腕をさする。
「まるで被害者の様ですね」
「……」
それを聞いてマーキュリーはピタリと止まる。
その表情はどこか歪で、奥歯を噛み締め、それでいて自身を責め立てるかのような、苦痛を孕んだ顔をする。
それを見て、ディガードは目を開き彼女を睨みつけた。
そして、一つ息を吐き、自身の中で答えを出す。
――まあ、いい。
「私が言うのもどうかとは思いますが、本当にそんな写真で信じていただけるんですか?」
「…………ええ。私の方でも調べる手段と言うのはあるのですよ。限定的ではありますが」
「そうですか……なら、まあ……」
ディガードは機嫌を悪くしながらも、マーキュリーへと告げる。
「貴方は協会の命令に忠実であるとして、在籍を認めましょう……それと」
マーキュリーはディガードの方を見る。
「今は街の復興に力を割いておりますので、赤ずきん、あれらに関しては探し出すこと自体難しいでしょうね」
「そうですか……分かりました」
「…………もういいですよ。下がりなさい」
「はい」
マーキュリーが去っていくのを見送り、ディガードはフランクウッドの死体が移された写真へと視線を落とす。
そして、それを指でつまみ、ゆっくりと引き裂いていく。
「これでしばらくの間は、邪魔できないでしょう」
ディガードはため息をつく。
ここ最近の気疲れがずっと取れないでいる。
「全くもって、嫌になる…………」
ディガードは引き出しを開け、あの紙切れへと視線を落とす。
「目的…………その果てに、何があるというのだ……いや、考えるな……ただ、私はこの目的を……そうだ、それでいい」
コンコン。
ディガードの声色がだんだんと暗くなっていく中で、部屋の中へと扉を叩く音が鳴り響く。
それに、ディガードはハッとさせられ表情を作り直す。
そして、笑顔で言う。
「どうぞ」
「失礼します。ディガード様……その、国王陛下からの令状が届いております。どうぞ、ご確認ください」
中へと入って来た狩人から手渡されたそれは、ディガードにとって決して好ましい物とは言えなかった。
なんせそれは、この国の国王、カレディアからの召集令状だったのだから。
「……そうですか。どうもありがとう」
◇
自身の前へと現れた白いローブの男に対して、カレディアは不安を募らせる。
「……ヘケロン殿、今回はいかがなされたのですか?」
コートルがヘケロンへとそう問いかけると、彼は嬉々として語る。
「いやなに、君たちに助言をしに来ただけだとも」
「……助言、ですか?」
「ああ。だから、そう警戒する必要もあるまい」
逆三角形の仮面へと手をかけながら、ヘケロン・オディクスは首を傾げる。
その仕草は、やはり、どこか楽しんでいるようにカレディアの目には映った。
「……では、その助言を頂けないでしょうか?」
しかし考えても無駄だ。
カレディアは、呼吸を落ち着かせヘケロンへとそう、尋ねることにした。
「君たちの耳にも既に、狩人たちの中から魔女が出たというのは入っているだろう?」
「ええ……」
それは実にタイムリーな話だった。
人に成り代わった魔女の対処を生業としていた狩人、その者たちの中から魔女が出たのだ。
この事実は、時期に国中に広がって皆を不安に……かくしてはまた、魔女が現れた当時の混乱が再来してしまうのかもしれない。
それを危惧し、情報の規制を行おうとした頃には、もう既に遅かったのだろう。
現に、目の前の協会に属してもいない男がその情報を知っているのだから。
「それも、魔女となったのが、あのアズレア殿が常に行動を共にしていた方だとお聞きしています」
「ああ」
ヘケロンが笑ったような気がした。
もしかすると気のせいかもしれない。
「……」
カレディアは息を呑む。
「いかがなされたのですか? ヘケロン殿」
「君は不思議だとは思わないのかね?」
「……正直な所、このような話を信じたくはありません……貴方の質問に答えるのであれば、答えは――はい――でしょう。」
「そうかそうか。なら――」
ヘケロン・オディクスは声色を弾ませた。
その様子にコートルは、一度は敗れながらもまた、警戒の色を示す。
「――ディガードを招集するといい」
「……それは、何故ですか? 理由をお聞かせ願いたい」
ヘケロンは首を傾げながら、カレディアの元へとグイっと近寄る。
それを受け、カレディアはコートルに手で指示を出す。
何もしなくていい。
「……ッ」
不気味な逆三角形の仮面、それが自身の顔の前まで来ているというのに、カレディアはただ冷静を装っていた。
「いやはや、君には心当たりがないと言うのかね?」
「心当たりですか……?」
「……まあ、いい」
ヘケロンはゆっくりとカレディアから離れ、軽く自身の衣服を手で払う。
「私は、ディガードも既に魔女となってしまっているかも知れないと言っているのだよ」
それは、カレディアとコートルにとって衝撃的な言葉だった。




