93.警戒心
「なあ、ハバラナ~……根源と魔力って別物なのか?」
「ちょっとガラック、それは私が見つけた疑問ですわ!」
「……しらね」
黒いローブのフードを深々と被った女性に、まだ幼いガラックとメリーは質問攻めを行う。
それに対し、女性は森の奥を深々と見つめながら、答えを返す。
「魔術師たちの中には、根源という言葉を毛嫌いしている者がいる。それらが勝手に言葉を変えているだけで、何も違いなんてありゃしない」
ガラックとメリーはお互い見合わせながら、彼女が向いている方へと目を向ける。
「じゃあさ、ここはどういう意味なの?」
そして、メリーが持っていた本をペらりとめくり、ハバラナと呼ばれた女性へと向ける。
ハバラナは目を閉じ、ゆっくりとメリーの方を見つめていった。
「ガラック」
ガラックの肩がびくりと震えた。
「はい、なんでしょう……?」
メリーとガラックは額からだらだらと冷や汗を流し、そのまま目を逸らす。
メリーに至っては、舌をぺろりと出す始末。
「自分たちにできることを考えたのは認めよう。ただ、安直すぎる」
「……ええぇ?」
ハバラナがガラックの方へと向き直ると、メリーは本を閉じた。
ガラックの手に握りしめられた、鞘に入ったままのナイフを見て、ハバラナはしゃがみ込み助言を行う。
「メリーに意識を向けている隙を使って、お前が私を狙う――」
そして、ガラックに意識が向いているハバラナの背後から――メリーは本を振り下ろす。
「――それをフェイクに、メリーが私を攻撃する――」
しかし、振り下ろされた本は簡単にハバラナに防がれた。
「ガラック!」
「……無理だ」
いつの間にかゴーレムに抑えられているガラックと、腕をグイっと引き寄せられ、身動きを取れないように絞められるメリー。
「いいか、二人とも。私はお前たちに、この私に一撃入れるようにと指示を出している。つまり、常に警戒しているというわけだ。そんな相手を襲うなら、無意識を狙いなさい」
「いや! これでも十分だろ!」
「そうですわ! そうですわ!」
ハバラナは軽くため息を付いた。
「そうか……」
そして再び、森の方へと目を向ける。
こちらを見ていた狼が、引き返していく。
これでいい。
無理に、生き物を殺す必要などはないのだから。
「二人とも、休憩は終わりだ。また、山頂を目指すとしよう」
ガラックとメリーはまた、お互いの顔を見合わせる。
「「はーい」」
◇
ロイシアンの目の前を飛来するゴーレム。
それは、二体のゴーレムを使った攻撃だった。
片方がゴーレムを抱え、ガラックの水球で瓦解しながら勢い任せに飛んでいき、掴まれたゴーレムも水球を持ち上げた状態で自爆を試みる。
ゴーレムに行える命令は簡単でなければならない。
逆に言えば、簡単な命令であれば、雑な無茶ぶりをしたとしても、ゴーレムはそれを遂行しようとするというわけでもある。
「気でも狂ったのか!?」
「そりゃあもう、怖くて怖くって……それこそ、涙がちょちょぎれそうなほどにね」
目の前に爆速で迫ってくるゴーレム。
それを何かに例えるのなら、暴走した馬車がこちらへと突っ込んでくる、そんな所だろう。
しかしながら、そんな最中でも、恐怖心を抱きながら、ロイシアンは思考を巡らせる。
まず、ガラックとゴーレムの距離感はどうだ……。
距離がある。
追撃はどうだ。
現状、その類の物は見受けられない。
奴の仲間は居るか……。
見受けられない。
潜伏している気配もしない。
じゃあ、この攻撃の意図は何だ――
「――ッ!!」
思考もままならないまま、ロイシアンは自身が立っている床を滑らせ、全身を脱力させる。
直後ロイシアンの上空を飛来するゴーレム。
意図はまだ分からない。
だが、おもむろに自爆しそうなゴーレムを放っていいはずがない――
「流石とでも言っておきやしょう……」
過ぎ去る前に、爆発する前に、後方のゴーレムの腕を滑らせる。
前方のゴーレムがずれ落ちる。
魔術を使い、すぐさまそれを蹴り飛ばす。
片や天井へと衝突し、片や遠くへ飛ばされる。
その様子を見て、ガラックは――
「ま、そんなに意味はないんですがね」
などと笑って見せる。
それを見てロイシアンは、何とも言い表せない怒りを覚え、目を見開いた。
自分の行動に笑われた。
それは彼の中で、心底許せないことだった。
「何を……!!」
「おっと、あんまし動かない方がいいですよ」
ガスッ!
と、音を立てながら地面が抉れる。
ロイシアンの背筋が凍る。
ロイシアンが地面に這いつくばった状態で起動された、ガラックの魔術、それがロイシアンの動きを防ぐように展開され、固まったのだ。
「何をしてくるか分からない……そりゃ警戒くらいするでしょうね……と言うことで、そこで大人しくしていてくだせえや」
這いつくばった状態で、ロイシアンは怒りの声をぶつけて見せる。
――もう、誰もいない下水道へと。




