【☆】92.リソース
気まぐれです。
これからの気まぐれでの投稿には【☆】マークを付けておきます。
「さて、メリーさんや、いったん俺たちにできる事を整理しやしょうや」
逃げながら、ガラックはそう口にした。
「私の場合は、術式が刻まれた外装にこのコアを与えることで、簡単な命令を聞くゴーレムを造れますわ」
「俺の場合は、この瓶の中にある砂鉄と水を分散させたり圧縮させたりできる。水は回収できないが、砂鉄はこの瓶の中へと戻ってこようとする」
怪我人を抱えた状態で、狩人、それも上級の者に追われている。
その状況で視野が狭くなるのは論外。
焦りそうな時ほど、自身にできることを思い返すことが大切である。
二人は、そう恩師から教わっていた。
であれば、今実践し、全力で逃げに徹するのみだろう。
「そして、メリーが造ったコアには、俺の砂鉄を入れているからいつでも回収可能……と」
「今動いているゴーレムは彼女を運んでいる子を含め、二十六体程。結構減ってしまいましたけれど、ゴーレムは後十体程造れますわ」
「コアの回収を考えなくていいってんなら、水球を組み込んだゴーレムを自爆させたっていい」
ガラックは下水道の天井を見上げる。
今彼らが走っているのは、魔術師が登場するよりも前に作られたインフラ設備の一つだ。
元は、排水と雨水を同時にため込み、そのまま川へと流していくというシンプルすぎる仕組みだった。
そう、元はだ。
既に張り巡らされていた王都の地下を変えることは難しく、手が付けられていない。
じゃあ、何処が変わったのか。
川へと繋がる場所と、比較的地盤沈下の恐れが少ない王都郊外だ。
汚水用の巨大水路と、雨水を貯水槽と川に流すための小さな水路その二つに分断された。
それに伴って、王都の地下を流れていた下水は川ではなく、ある程度進んだ地点で郊外の下水道へと合流するようになっている。
そこでは下水処理の兼ね合いから、川へ人一人が出ることは難しくなっている。
「地上での捜索を嫌ってここへと逃げてきたわけですが、上へと逃げるってのも一つの策というもんでしょうな」
「……相手がどう出てくるか次第……いえ、それを見ていられる程の余裕はありませんわね」
「ああ……」
人とまずは、あの上級狩人とこちらの分断に成功したわけだが、またいつ追いつかれるとも分からない。
選択は無数にあるが、一つ言えることとして、このまま下水を突き進んでいけば、必然的に鉢合わせになる可能性が高いということ。
考えればそうだ。
下水道は、人が逃げ込むための場所ではないのだから、その作られたわけを考えればその結果は見えてくると言うもの。
「その上、相手は手練れであってして……ちっとやそっとの偽装は見破ってくるってもんで…………」
「ガラック、ずっと考えていられる程の余裕はありませんわよ?」
こうやって入っている最中も、どんどんと王都の中心部から離れていく。
このままでは、出られる場所がだんだんと限られていく。
戻るか?
否――
「――メリー、このまま進んでいくとしやしょうか」
ガラックは不敵に笑って見せる。
それにメリーは釣られて笑う。
いたずらの時間だ。
◇
「さて、奴らは何処へと逃げたのか……」
下水道を歩く度、足音が反響する。
ロイシアンはその音一つ一つに耳を傾けながら、ガラックたちが逃げた方向を考える。
「偽装ができるほどの魔術師であれば、やはりここへ逃げ込むとは思っていました……しかし――」
そう、ロイシアンがここへ来た理由は、ガラックたちが魔術に偽装を仕掛けたのを見破ったからに他ならない。
自身の扱う魔術の偽装、それは簡単なことじゃない。
それだけ魔術に精通しているということだ。
ともすれば、魔術師たちが整備し直したこの下水道へと逃げ込むかもしれない。
インフラ整備を担っていた魔術師たちや、一部の魔術師たちの間ではここの造りは周知されており、人目に触れずに王都各地へとアクセスできる。
これらの条件は、魔術師間での情報売買や、公には言えない事を行っている者たちにとって、あまりにも理想的といえるだろう。
そう、人目を避けて移動するにはうってつけなのだ。
この場所の道を知っている者にとっては。
「怪我人の感染リスクよりも、狩人を引き連れて逃走することを嫌った……と……」
ロイシアンは口角を滲ませるように笑みを浮かべた。
「とても素晴らしい魔術でしたからね。派手で目立つうえ、大勢相手や開けた場所は不利そうだ……!」
ロイシアンは下水道の天井へと目を向ける。
この上はまだ、王都の中心部に近い。
彼らが嫌った条件がそろっているというわけだ。
であるからにして、仮に下水道を出るのだとしても、それは王都郊外へと差し掛かってからだろう。
「郊外であれば、雨水用の水路もありますからね。見つかれば一網打尽とは言え、良い選択ではある……」
とは言え、相手も馬鹿じゃない。
ロイシアンが偽装を見破り、この下水道へとたどり着いたのを見て、そんな単純なルートを選ぶだろうか。
このまま、下水道を駆けまわり、ロイシアンを巻いたと判断してから地上へ、あるいは地上へ出て、行方をくらます、一度出てからまた下水道へと戻る。
「こちらの動向を探ってくる可能性も……いえ、そこまで愚かでもないでしょう……」
ガラックたちと分断された後、ロイシアンはずっと反響音に耳を傾けていた。
おおよその逃げていった位置は分かる。
引き返した訳でもない。
かくれんぼ、あの石造りの小人たちでのフェイント……考えうる策はいくらでもある。
それこそ、これはじゃんけん試合でしかないのだ。
しかし――
「――郊外へと出られるまでは、取れる策も限られてくるでしょう……」
ロイシアンの負けは、相手を郊外へと出すことになる。
相手は知性を持った魔術師で、それに全力で逃げ隠れされるということだ。
そうなれば、よほどの運がなければ、見失った状態で再度彼らを見つけるのは困難を極めるだろう。
「ふふ楽しくなってきましたね……」
ロイシアンは走り出す。
ガラックたちが逃げたであろう場所を絞り出し、先回りを図るつもりなのだ。
「私が必ず――」
「――小人さん方! やってやってくださいな!!」
「――は?」
そんな大声と共に、ロイシアンの前へと凄まじい勢いで飛来してくる石造りの小人たち。
それらが、ロイシアンの前で眩い光を放ちだしたのだ――
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