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88.協力者


「ノノハ様、また来ます……それでは」


 オディステラはそう口にし、アズレアの部屋の前から去っていく。


 不安、心配そんなものが混在する中で、知覚する感覚。


 もし、彼が自身の元から離れていってしまったら……。


 それがたまらない程に恐ろしい。


「……」


 胸がキュッと締まっていくのを感じる。

 誰かにとっては、魔女が登場する以前よりも、魔女が登場した今の方が暗く恐ろしい日常だというのだろう。


 でも、オディステラにとってはそうじゃない。


 魔術そんなものが登場するよりも前から、人並外れた力を武器に戦ってきた人間がどれほどいたことか。


 まさに人外魔境と言えるような場所で、村全体で取り残される恐怖。

 あの日々を思い出すと今でも手が震えてしまう。


 あまりの恐怖に、一家心中を行う者。

 他の家を襲って物資を奪おうとする者。

 それを村全体で咎め、疑心暗鬼に陥り、夜逃げを行い、敵国の騎士に取り入ろうとした者……。


 とにかく、極限状態で起きたあのパニックは、彼女の心を蝕むのに十分すぎた。

 誰が漏らしたのか、それとも時間の問題だったのかは分からないが、誰も信じられない。

 そんな状態でやって来た、敵国の騎士たち。


 それを察知した村人たちの行動は想像に難くないだろう……。


 そんなぐちゃぐちゃな恐怖の中で、思考も回らない場所で、何とか立った一人残った彼女。


 結果として、そんなものは無意味だったというのに。


 ――ふふ……あははは……。


 村に脅威が到着するよりも前に、それらは排除されたのだから。


「……なんだこの酷い有様は……」


 今でも、村の状況を確認しに来た騎士の言葉を覚えている。


 手で口元を抑え、立ち込める吐き気を抑え、目を背けながらに口にしたその言葉。


 死体とナイフと愛憎と、それらと共に眠る私の姿。

 それがとても恐ろしく見えたのだろうか。


 誰も私に手を差し伸べようとはしなかった。

 たった一人、ノノハ様を除いては。


 ――そう、ノノハ様を除いては。


「……」


 遠くで聞こえた声に、オディステラは振り返る。


「……」


 そこには誰もいない。


 瞬きの瞬間、とてつもない恐怖が心を染める。


 血が、肉が、恐怖が、飢えが……視界に戻る。


「……ッ!」


 それに咄嗟に体が震え、後退る。

 足がよろめき、壁にもたれかかる。


 そして、手が――壁へと触れる。


「……?」


 ――パラり。

 触れた一部が土へと還る。


「嘘……?」


 ドクドクと、脈が速くなる。

 ドクドクとドクドクとドクドクと……呼吸が荒くなる。


 パッと浮かんだ言葉。


 ――魔女。


「私が……? いつ? はぁ、はぁ、はぁ……!」


 固唾を呑みこむ。


 恐れ、恐怖、それらが餌となり、自身の中に巣食った何かを成長させる。


 手が黒ずみ、指が枝のように伸びていく。


「……!!」


 オディステラは自身の変化に恐怖を覚え、咄嗟に手をお腹の当たりへとあて、周囲から見えないようにと隠そうとする。

 しかし、その不審な様子に、親切で、仲間意識の強い狩人たちが気づかないわけもなく――


「オディステラ……? ――!!」



 ◇



「はぁはぁはぁ……!!」


 オディステラは走る。

 角へと曲がり、外を目指していく。


 走る走る走る。


 腕に負った傷を必死に何の動物とも似つかぬ手で押さえ、懸命に走る。


 仲間たちの戸惑いながら、憎悪にまみれながら、苦しみながら、力の入っていない攻撃が、彼女を襲う。


「…………ノノハ……様……!!」


 そんな彼女のか細い救いを求める声、それをかき消すかの様に、狩人たちは叫ぶ。


「出口を塞げ!!」

「いたぞ!! こっちだ!!」

「構うな! やれ!!」


 そんな中で、決意に満ちたかの様に彼女目掛けて飛んで来る放射系の魔術。それが彼女を正確に捉える最中。


「よってたかって、こんなお嬢さんを襲うたぁよかねえってもんですぜ?」


 甲高く指が鳴らされる。


 ――直後、壁全体を覆う流体。

 それらが瞬時に固まり、それらの攻撃からオディステラを守ったのだった。


「どうも、お嬢さん。お怪我はありやせんかい?」

「はぁ、はぁ……貴方は……?」


 息が荒れ、立たねばそう思うのに、彼女の意識は遠のいていく。


「おっと、こりゃいけねえ。メリー! ちょいと手を貸してくれ」

「あら? 私の手は借りないとか抜かしておりませんでした?」

「……メリー様。私が愚かでした。どうか手を貸してください」

「よろしい。ほらおチビちゃんたち、彼女を運んでくださいまし」


 オディステラは、石造りの小人たちに抱えられ、完全に意識を手放すのであった――。

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