86.パワフル! パラダイス!!
「なあ、クンツァイト。そろそろ話してくれたっていいんじゃないか?」
クンツァイトに備蓄室へと連れてこられて暫くが立つが、彼女は一向に黙ったままだった。
クオーツもアグスも別に彼女を急かすつもりはない。
ただ、クオーツは思うのだ。
やはり、女性の深刻そうな雰囲気はどこか難しいと。
自身が豪快な性格ゆえ、繊細に扱ってあげられないのが悔やまれるというものだ。
「いや、なんだ……そのね…………そんなもんだろうとは思ってたんだけれど」
クンツァイトは、そう前置きを挟む。
「その……最近皆変じゃないかい?」
「変?」
そのやり取りに、アグスの耳が反射的に動いた。
「取り乱すのはまあ、あんなことがあったんだ。だからいいとして……そう言った人の動きが不自然なんだよ――」
◇
先の食堂での一件があったのと同日。時刻は少し巻き戻り、昼頃となる。
「……店長、お久しぶりです」
「…………カトール。もう、いいのか?」
「はい、おかげさまで」
「俺は何もしてないさ」
あれから数日が経過し、カトールは仕事に復帰する運びとなった。
ただ――
「――酷い有様ですね」
「……まあな」
カトールは普段、この店の店主から新聞を受け取り、それを広場などへ出向き販売していた。
それが今ではどうだ。
壁の一部が崩れ、内装は荒れ、外はところどころ黒焦げと来た。
とてもすぐに営業再開とはいかないだろう。
「あんなことがあったんだ。もう少し休んだって文句は言わねえよ?」
「いえ、店長にはお世話になりましたので、俺も何か手伝えればと……」
今の言葉は嘘じゃない。
それでも、カトールの良心が痛む。
「つってもな、保管していた新聞が残ってるか調べて、片づけるだけだぞ?」
「一人でやるよりはずっといいでしょ」
「まあな……じゃあ、そっちを頼もうか」
「分かりました」
そう、目当てはここに保管されていた新聞たちだ。
これらは全て店長の趣味の代物たち。
古い記事を一つ一つとっておき、順に辿って今まで起きたことを追体験していく。
そういった楽しみがあるのだと、店長は普段から語っていた。
ただ、趣味であるからこそ、普段はこれらに触れることは許されなかった。
下手に扱って破けたり、痛んだりするのが嫌だそう。
「……いくつか破れてましたか?」
「…………まあな」
「…………」
正直、傷心している店長を見ていると、後ろめたい気持ちが強くなっていく。
しかしながら、狩人でもないカトールが【罪火の魔女】について知るためには、この方法しか思いつかなかったのだ。
散らばった新聞に目を通しながらかき集め、暫くが経過した頃。
「店長、これはどうしますか」
「ん? ああ、それは――!」
店長が急にその場で後ろに飛び跳ねる。
その様子にカトールの思考が一瞬止まる。
そして「何故、そんなことを?」そんな思考で埋め尽くされると同時。
――ガシャン!
そんな大きな音を立てて崩れる天井。それが落ちた場所は、先ほどまで店長が立っていた場所だった。
店長はひやりと額に汗を濡らす。
「あぶねえ」
「て、店長!? お怪我は」
慌てて駆け寄るカトール。
その頭上から小さな瓦礫が降り注ぐ。
「おい! 馬鹿!!」
店長が狩人と見まごうかのような動きで、カトールを手繰り寄せる。
それは凄まじく早く、瓦礫がカトールに当たることはなかった。
「……??」
カトールの頭にはてなが浮かぶ。
いや、そんなことをしている場合ではないのは分かっている。
死にかけた、まではいくか分からないが、少なくとも大怪我はしそうになったのだろう。
ただ、それ以上に店長の身のこなし、それらがどうも、おかしくておかしくて、あまり、それどころではないのだ。
「え……あ、ありがとうございます」
「……もう、ここもダメか……危ない。とっとと出ようか……」
「あ、はい」
危険を感じ、足早に店を出る二人。
おかしい。
店長は少し走っただけで息が上がる程、運動が苦手だったはずなのだ。
しかし、今のを見ると全然そんなそぶりがないではないか。
「あの、店長。先ほどはありがとうございました」
「ん? ああ、いいよ。それよりも怪我がなくて何より。それにあれ以上いるのは何かまずい気がするしね」
「そう、ですね……ところで店長、あんな風に動けたんですね」
「ね。人間、危ないって思ったら存外動けるもんなんだな。いや~あんまりにもかっこよかったからって、惚れないでね? 俺、男とか趣味じゃ――」
――ガシャン!!
「……あ、ああ~!! 俺の店が……」
◇
「動きが不自然か。まあ、確かにキレのある動きだったとは思ったが、言うほどか?」
クオーツが先ほど厨房内で暴れていた狩人たちを差して言う。
「クオーツ……あんたはあんまり気にしてないかもだけどね、あの子たちはサポーターなんだよ。それに、言っちゃなんだが、あんまし動ける方でもなかったはずだ」
「にしては、ずいぶんと冷静に動いているように見えましたね」
クンツァイトは押し黙る。
「そうなんだよ……最近ああいういざこざが増えてるんだけどね、なんだか、皆動きに一段と磨きがかかっていて……いや、喜ばしいことだよ? ただ――」
クンツァイトは不安を口にした。
「ちょっと、成長が早すぎるんじゃないかね……と」
「何か良くないことでもやってるんじゃないかってわけか?」
「いいや……疑いたかないけどさ……なんだか、嫌な予感がするんだよ」
クオーツとアグスは互いに顔を見合わせる。
「そうか。わかった、まあ、なんだ? こっちでも少し気にかけておこう」
「そうだね、気を付けといておくれ」
「……分かった。そうしよう」




