僕と彼女と眠っていた人々Ⅱ
「ここ、何か暗くないですか?」
東島は監視カメラの中でもある部屋の仄暗さが気になって二人に注意を促した。
三人で着いた希世の言う監視カメラを見るモニターにはいくつもの配線が伸びており、それが壁側端にまとめられていて黒いコードが散らばらないよう部品で止められていた。折れ曲がって断線しないように配慮されているのがまるで植物の維管束のようにも見えた。
各カメラの画面にはどこの場所のカメラなのか端的に表示が出ている。東島が気になった部屋の表示名は”研究展示室”。ここまでどこにも人影が居ないのが違和感しかないが、閉じ込められた時点で違和感も何も…と頭を左右に振った。気にしすぎなくらいに薄っすらと色がある映像に釘付けで見てみると、その中でチラリと動いた影を見つけた。
「希世、ここのカメラの履歴って」
「今遡るわね、」
問いかけた時点で既にモニターの下にあるキーボードを希世はカタカタ打ち始めていた。一度目に確信した希世の仕事ぶりにただただ感嘆する。そして隆大は違うモニターを隅々まで凝視した後、東島の気になった同じモニターへ視線を移した。
「こりゃ誰かいるなァ」
「やっぱり…見間違いかもしれないって思ったけど、もしかしてまひるさん?!」
「男とも女とも分からねェ角度…確定するのは早えな、それだと他に人がいない理由にある危険がプラスされる」
「そうね、警戒しておいた方がいいかもしれないわ」
「僕たちを閉じ込めた正体かもしれないってこと?」
「ご名答。よし、探りを入れながら進んでみましょう。東島君はここで休んでいて。私と藍澤君で一度展示室の方へ向かってみるわ。腕輪のヘルプが使えない以上、もし何かまた発作が起きてしまえば対処が難しくなるだろうから」
希世の言うとおり東島も探求心が強いのも本当ではあるが、不安な思いももちろんある。ただ誰もいない空間に残されるのもどうしようもなく正直怖い。
無意識にズボンのポケットに入っている何かを確認するように東島は探った。
電話なんて通じないよな、と自身のスマホに触れてみる。何故かスマホがあるのだ。
「仮想空間内では監視カメラの電波が乱れるのを防ぐために通信機器すべてが使用不能になるわ。例外として”仮想空間内の人”は使えるのだけれど」
希世の言う通り、現実にあるはずのスマホが”仮想空間の自身が手にしていること自体が変”だ。でもズボンの右後ろポケットに感触があって触ってみると間違いなく自身のスマホだった。そして起動している。いつもの見慣れた、よく晴れた空の待ち受け画面だ。
「ヘルプが出なくなったのはもしかして電波が乱れたからなのかしら」
k暗視カメラの録画データを遡りながら抽出結果を出している間、希世は東島の腕輪に意識を向けた。特に通知音が鳴ることもなく、そっと触れてみても何の作動も起きない。
「そんな脆弱な研究施設じゃあるまいし、もう一度見てみるかァその腕輪とやら」
「はい」
東島は腕輪のメニュー画面をスライドして見ていく。先ほど表示されなかったヘルプは出てこない。しかし代わりに出てきた文字に三人ともが驚いた。
「藍澤君、これ」
「この言葉なんて意味だ?そのまま訳していいのか」
「私はこの先に誰がいるか分かったわ」
「東島君をここで一人置いていくのはやっぱりやめた方が良さそう」
「ごめん、僕にも分かるように説明お願いしてもいいでしょうか…?」
腕輪の中にメッセージが届いていて、そのメッセージは送信元不明でエラー表示が出ていた。怪しいと感じながらもそのメッセージを開くと次の言葉が英語で書かれていた。
『 I came to see you Kisei's mother.』
【希世のお母さんに会いに来た】
東島の記憶が曖昧になっていた理由、それは自身との分裂だった。