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僕と彼女と再訪Ⅰ

希世たちが喫茶店へ入ろうかと進む時より少し前、仮想空間へ繋がるデータ転送装置が予期せぬエラー反応を起こしてしまった。催眠状態に近い希世と東島の心拍にやや乱れはあるが、途中参加の隆大の心拍数が異常に速い。このままでは空間自体にエラーが起きてしまう可能性が高くなってしまう。

「どうした」

「予期せぬ乱入者が入り方をミスしたようです…はぁ、面倒なことになりましたね」

久坂は心音や外部刺激が被験者に影響がないかのデータを液晶画面で確認をしていた時だった。道場破りのようなけたたましい音を立て、ドアの開け方をしてきたのは乱入者もとい藍澤隆大だった。


「遅れてしまってすまねェ!!」

「…確か君は藍澤くんでしたか。連絡が取れないと希世さんが嘆いていましたよ」

久坂はあくまで冷静に少し眉をしかめた。大きな音を立てて慌てて入ってきた隆大は肩で息をして額やこめかみから汗が垂れそうなのをぐいと自身の拳で拭った。

「あれ、まひるに言伝頼んだんですが…聞いてないですか?」

「まひるさんはバイトで急遽来れなくなったそうです」

「そういうことか…うっわ、希世から着信がこんなに…ん?何で航大からは連絡が無いんだァ、」

ふうとため息を吐きながら久坂は、手元にある資料と隆大を交互に見比べて、次はモニターに映し出された試験中の希世と東島の様子を観察し始めた。

「既に臨床試験が開始していますし、聞くまでもないですが参加しませんよね?時間が守れないようではこの再度検証がどういった意味を持つのか…どうやら軽く考えておいでのようですから」

「遅刻をしたのは悪いと思うがそんな拒絶されるほどじゃァないでしょう…!!悪いのは俺だ、それはそうだがどうにか入れてくれねェか…!!それに希世の親父さんはどうしたんですかァ?」

敬語のようでいてどこか煽ってくるような錯覚を覚えているが、久坂はずっと冷静だった。

「室長は希世さんを見届けた後すぐに大学の講義へ向かわれましたよ、数度顔を出すと任されましたがなにか聞きたいことでも?」

「あ、いやなんでもねェ…なァ俺も仮想空間へ飛ばしてくれよ…!」

話をすればするだけしつこいのは目を見れば分かる。もともと参加者である隆大の参加の有無は自身が掌握しているわけではないし、むしろその権利を有しているのはこの場にいない仮想空間にいる希世だけなのだ。

「着地点は導入部分から選ぶことはできません。もしかしたら無事では済まないかも」

「構わねェ、航大が入っているのに俺が行かないわけにいかねェんだ」

固く決意のような眼差しに少しの疑問が浮かんだが、何機かある予備のヘルメット型装置にコードを繋いで席へと促す。

「いいですか、着地点はあなたのジャンプ力次第です。決して油断せずに行動してください。そしてドアは静かに開け閉めすること。守りなさい」

「はい…」

大きな体を小さくして汗で張り付いた赤い髪をかき上げると、ヘルメット型装置を被ろうと腕を伸ばした。そのタイミングで近くにあった布巾代わりのタオルを久坂が足早に近づいて、やや乱暴気味に汗をかいた隆大の顔面と頭部を拭き上げた。

「水も厳禁です」

「すみませんでしたァ」

再び眉をしかめながら縁のない眼鏡をくいと持ち上げ、若干痛がる隆大の追加された心拍数を測るパッチなど手際よく取り付けていく。この時は誰も気づいていなかった。

もう一人の臨床試験参加者の存在に…―――。


「まひるに連絡してたんだがあいつも不参加だったとはなァ、悪かったなァ連絡できなくて」

「藍澤君はスマホを携帯しない人だものね、期待はしていないから大丈夫よ」

「おい怒ってんじゃねェよ、ただでさえ久坂にも睨まれたんだからよォ」

「意外と小心者って東島君に知られようが私の知ったことじゃないわ」

「おい希世…そこまで言うなよ…そろそろ落ち込むぞォ」

と歩きながらの一方的な希世の突き放し方に、東島は容赦ないなと感じながら喫茶店の中へ入った。

散乱したテーブルや椅子は少しだけ思い出したイメージと一致する。

そうか、ここから希世の部屋へ向かったのだ。少しずつはっきりと以前歩んだ道のりを進んでいく。

さらに、入り方に癖があるカウンターの奥へと着いた。

「ま、また落ちるのか…」

隆大がボソリと呟いたが持ち上げたカウンターの板の開閉音でかき消された。

「あったわ」

希世の指先すぐ近くには例の”五円玉サイズのボタン”だ。これを押せば、地下室への入り口となる。確か、とてつもなく爆音の非常ベルが鳴るのだ。心を決めておかないと驚きで腰が抜けそうになるのを覚えている。

「行くわよ、ちゃんと足で踏ん張り忘れないようにね」

こうしてあの時もアドバイスをくれていたらどうなっていたのだろうか。

地面が割れるなんて誰が想像しただろうか。今はとにかく落ち着いて、ここから出るためのヒントを得なくちゃいけない。しかしやはり怖い。

「行くわよ」

どこまでもクールな希世を頼もしく感じながらも、崩れ落ち始めた地面と再び爆音の非常ベルが鳴り響く中、三人は歩み始めた。








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