第四章:聖獣スライムと、暴走する魔導書の大乱闘!
キノコの森を進むにつれて、ざわめきは次第に大きくなっていった。それは、まるで何かが議論しているような、あるいは興奮して騒いでいるような、そんな生きたざわめきだった。
そして、視界が開けた先に現れたのは、度肝を抜かれる光景だった。そこは、広大な空洞になっており、中央には巨大な水晶のようなものが鎮座している。その水晶からは、虹色の光が放たれていて、幻想的な雰囲気を作り出している。
しかし、その幻想的な光景とは裏腹に、そこでは激しい「ケンカ」が勃発していた。
「この愚かな粘液生命体め! わたくしの神聖なる知識を汚すでないわ!」
「ぷるぷるぅううう! 聖獣スライム様に逆らうとは、万年筆インクの染みめぇ!」
聞こえてきたのは、そんな怒鳴り声と、奇妙な音の応酬だった。見ると、そこにいたのは二つの「何か」だった。
一つは、青く輝くプルプルとした塊。そう、スライムだ。ただし、普通のゲームに出てくるような可愛らしいやつじゃない。僕の背丈ほどもある巨大なスライムで、体中から泡を吹き出しながら、もう片方の「何か」に飛びかかっている。表面には、まるで目玉のような模様が不規則に浮かび上がっては消え、見る者に言い知れぬ不気味さを与えていた。しかし、その動きはどこかコミカルで、威厳があるのかないのか、よくわからない。
そして、もう一つは、宙に浮かぶ分厚い本だった。表紙には、禍々しい紋様が刻まれ、ページがひとりでにパラパラと捲れている。本なのに、なぜか喋っている。しかも、かなりの悪態をつきながら。その本からは、黒いオーラのようなものが立ち上っていて、時折、ページから小さな稲妻が飛び出している。
聖獣スライムと、暴走魔導書。まるでマンガの世界から飛び出してきたような二人が、水晶の前で大乱闘を繰り広げていた。スライムは体当たりを仕掛け、魔導書はページから魔法のようなものを放つ。
「あれは…?」僕は思わずマドカに尋ねた。マドカはニヤリと笑った。彼女の頭のキノコも、なんだか楽しそうに揺れているように見える。
「あれこそ、わたくしたちの新たな仲間なり! ちょっとばかり、手荒な挨拶をしているみたいなりが…」マドカはそう言うと、何の躊躇もなく、乱闘の渦中へと飛び込んでいった。
「こら! そこのお馬鹿な二人! わたくしの前で、醜い争いはやめるなり!」マドカの一喝が、空洞中に響き渡った。その声には、不思議な響きがあり、まるで彼女の頭の毒キノコから、目に見えない波動が放たれているかのように感じられた。
すると、あんなに激しく争っていたスライムと魔導書が、ピタリと動きを止めた。そして、ゆっくりとマドカの方を向く。僕は、この奇妙な状況に、ただただ立ち尽くすしかなかった。僕の平凡な人生は、確実に壊れていっている。でも、なぜだろう。この壊れっぷりが、案外心地よい。中毒性のある毒キノコのようだ。
僕たちの旅は、まだ始まったばかり。この先、どんな奇妙な仲間と出会い、どんな「毒」に侵されていくのだろうか。