第三章:地下への誘いと、キノコの森のざわめき
運命の輪っか、とやらがゆっくりと回転を始めた。それはまるで、地獄の釜の蓋が開くような、不吉な音を立てていた。耳障りな金属の軋む音が、夜の静寂を切り裂き、僕の鼓膜を不快に震わせる。
歯車の中心が、みるみるうちに光り輝き、やがて漆黒の闇へと姿を変えた。ブラックホール? 異次元へのゲート? 僕の貧相な語彙では、この状況を表現する言葉が見つからなかった。ただ、本能的に「やばい」と思った。
「さあ、参りましょう、タカシ殿! この先に、わたくしたちの真の旅路が待っているなり!」マドカは僕の手を引いたまま、迷いなくその闇へと足を踏み入れた。僕は一瞬、足がすくんだ。この先の未知に対する恐怖。そして、わずかばかりの期待が、僕の心臓を鷲掴みにした。
僕は、マドカに引きずられるようにして、その闇の中へと飛び込んだ。一瞬、無重力状態になったかのような浮遊感。胃がひっくり返るような感覚に襲われ、思わず目をつむった。
次に目を開けた時、僕たちはとんでもない場所にいた。そこは、まるで巨大なキノコの世界だった。頭上には、青白い光を放つ巨大なキノコの傘が何層にも重なり、天井を形成している。足元には、ふかふかの苔が生い茂り、そこかしこから、鮮やかな色彩のキノコたちがニョキニョキと顔を出している。
硫黄のような、あるいは土のような、独特の匂いが鼻腔をくすぐる。それは、僕がこれまで嗅いだことのある、どんな匂いとも違っていた。この場所は、僕の知っている「地球」ではない。完全に別の惑星、あるいは異世界に迷い込んでしまったようだった。
「ここは…?」僕は呆然と呟いた。マドカは得意げに胸を張った。頭のキノコも、心なしか誇らしげに見える。
「ここは、古の『菌の民』が暮らしていた場所の一端なり! 地上からは隔絶された、秘密の地下世界なり!」彼女の声が、キノコの傘に反響し、神秘的な音色を奏でる。
僕の目の前には、見たこともない奇妙なキノコたちが群生していた。発光するキノコ、踊るように揺れるキノコ、そして、まるで生きているかのように、僕の視線を感じ取って、わずかに傘を傾けるキノコ。僕の知っている「きのこ」の概念が、ガラガラと音を立てて崩れていく。
奥の方からは、ざわざわと何かの声が聞こえてくる。それは、風が木々を揺らす音にも似ているし、大勢の生き物がひそひそと話しているようにも聞こえた。
「さあ、タカシ殿! 進みましょうぞ! このざわめきの先に、きっと新たな出会いが待っているのなり!」マドカは僕の手を強く握り直し、キノコの森の奥へと僕を誘った。僕は、毒きのこに導かれるまま、未知の世界の奥へと足を踏み入れた。僕の人生は、もう薄味のスープなんかじゃない。とてつもなく刺激的な、毒入りキノコ鍋になったみたいだ。