序章:運命の輪と、僕の退屈な日常に生えた毒きのこ
「えっと、自己紹介ってやつですか? どうも。タカシです。どこにでもいる、ごく普通の凡人。いや、むしろ凡人以下かな?」
僕の人生は、まるで薄味のスープみたいなもんだ。特筆すべきこともなく、刺激もなく、ただただ消費されていく日々。朝起きて、バイトに行って、帰ってきて、寝る。まるで誰かが作ったプログラムを、ただこなしているだけみたいで。
外見? ああ、これまたどうでもいい話なんだけど。背は中の下。猫背気味。髪はボサボサの黒髪で、いつも寝癖がついてる。眼鏡の奥には、生気のない魚みたいな目。服はユニクロの無難なTシャツと、ちょっと毛玉のついたスウェットパンツがお気に入り。
まるで、背景の一部としてしか存在しないような男。それが僕、タカシだ。そんな僕が、まさか世界の運命を左右するような大冒険に巻き込まれるなんて、一体誰が想像しただろうか?
まあ、強いて言うなら、ひとつだけ特技があった。それは「きのこ」を見分けること。図鑑片手に森を彷徨うのが、唯一の趣味だった。毒きのこだろうが、食べられるきのこだろうが、区別なく愛でる。変人? そうかもね。
そんなある日のことだ。いつものようにバイト先のコンビニで、廃棄弁当を貪っていたら、店の自動ドアが「ウィーン」と音を立てて開いた。そこに立っていたのは、目を疑うような「何か」だった。
頭のてっぺんから、真っ赤な毒々しいきのこが「こんにちわ!」とばかりに生えている。そんな少女が、満面の笑みで僕に向かって駆けてきたんだ。ピンク色のフリルがふんだんにあしらわれた、まるで絵本から飛び出してきたようなドレス。
キラキラと輝く大きな瞳。陶器のような白い肌。そして何よりも、頭から生えた、瑞々しい赤いきのこ。傘の部分には白い斑点までついてる。完全に、ベニテングタケだ。毒きのこ中の毒きのこだ。
「わたくし、モリミヤ・マドカ! 貴方の運命を断ち切りに参りましたなり!」少女はそう叫ぶと、僕の前に仁王立ちした。奇天烈な口調。そして、その背後から湧き出る、なんとも言えないキノコの香りが、コンビニの揚げ物の匂いをかき消していく。
これは、僕の退屈な日常に、突然生えてきた「毒きのこ」だ。そして、この毒きのこが、僕の人生の味を、劇的に変えることになるなんて。この時の僕は、まだ知る由もなかった。